ATMより愛を込めて

・作

幼馴染同士の棋一朗(きいちろう)と結香(ゆいか)。二人の交流は結香がふらりと棋一朗の元にやってきて、金を貸せと言うだけだった。いつもと同じように棋一朗に願い出る結香だったが、いつもと違い棋一朗がある条件を持ち出す。その条件に抵抗する結香だったが…。

「…きーちゃん」

インターホン越しの声に、棋一朗(きいちろう)は返事もせず扉を開ける。

きーちゃん、こう呼ぶのは幼馴染の結香(ゆいか)以外いないからだ。

「また来たのか」

冷たい声に、結香は困ったように視線を下げた。

「入れよ」

こんな所で話していても埒があかない。そんな様子の棋一朗に結香は「おじゃまします」と言いながら部屋に上がった。

「で?」

何か飲むか、なんて言葉もなくさっさと要件を話せ。

棋一朗のそっけない態度に結香は口をはくはくと動かしたが、音は出なかった。

「どうせいつもと一緒だろ」

全部わかっている。そんな様子でドサリ、とわざと大きな音を立て座った棋一朗の前で、結香はただ立ちつくしていた。

「座れば」

「あ、うん……」

躊躇いがちに座る結香。スカートは短く、肉付きの良い足が見えた。

「あの、ね」

首を右へと傾け上目遣いで棋一朗を見上げる仕草。計算されつくされたものだろうと棋一朗は鼻で嗤う。

意地悪な笑みに、結香はまた口を閉ざした。

「早く話せよ。どうせ時間ないんだろ」

「なんでわかるの」

簡単な答えだ。言い淀むくせに、時間を気にしているし明らかに格好が違う。

棋一朗の所に来る時はいつだってそうだった。急いでいるの、時間がないの、ねぇ、お願い、きーちゃんしか頼る人いないの。

そんな言葉を何度言われたか。

棋一朗は途中で数えるのも放棄したが、棋一朗が何も言わないことで結香が訪れる頻度が上がってきた。

「きーちゃん、あのね、今日も悪いんだけど……」

「お前さぁ、悪いなんて思ってないだろ」

「思ってるよ!思ってるけど…どうしようもなくて」

「そういうのを思ってないって言うんだよ」

呆れたように、語気を強めて言ってやれば、結香は目を潤ませる。

「きーちゃん、きーちゃんしかいないのぉ……」

そう言って、棋一朗の服を握る。その際、足を少し崩す。

そうすればスカートが動き先程よりも足がよく見えた。計算だろう、と棋一朗はその足を凝視すれば結香は焦ったようにスカートの裾を引っ張った。

「今日はいくらなの」

「えっと、3万円」

3万。安い金額じゃない。けれど、結香はいつだって棋一朗になんてことないといった様子で無心する。

「この間のまだ返してもらってないけど」

「今度、返すから! ね、お願い!」

今度。そんなもの永久に来ないだろう。一度だって返ってきたことなど無い。返すと口だけだ。

しかも、性質が悪いことに金額が上がっている。

「俺もそんなに金持ってないんだよ」

「でも、きーちゃんなら何とかしてくれるでしょ? だって、有名な会社に勤めてるじゃない」

有名企業だから給料が多い。だから自分に貸すなんてこと大したことないだろう。当然のような顔で言われ、棋一朗は苛立つ。

「普通さぁ、貸すってなったら対価がいるよな」

「え? でも、きーちゃん、幼馴染だし……」

「幼馴染だとただで金貸さないといけないの?」

「だって、幼馴染でしょ?助けてよ」

「は? だったらお前も俺を助けてくれるのか」

「きーちゃんが困った時は、助けるよ!」

嘘吐き。言うが早いか、棋一朗の手は結香を捕まえた。

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