古びた記憶よりも今の君を抱きしめる (Page 2)

「でも、あんなに小っちゃかった晶ちゃんが、こんなにおっきくなるなんてなぁ。俺もオジサンになるわけだ」

「ええー、全然若いですよ」

「お世辞も言えるようになったのか。今は、大学生だっけ?」

「そうです」

 そんなことを話しながら俊輔は拾い集めた焚き木を地面に下し、火を熾す準備を始める。慣れているわけではないが、何度となくこの場所で火を熾してきた。だから慣れていなくも手順はしっかり覚えている。

 手元に視線を落としたまま、彼は晶に何気ない風に言葉を投げる。

「そのテント、古いけど、どうしたの?」

「ああ、これ。お母さんの持ってきたんですよ。使わないのに、ずぅっとしまったままで」

「そうかぁ」

 返事をし、手を動かしながらも俊輔は動揺を鎮めようと必死だった。

 とっくに捨てたと思っていた。古びたテントも、自分の中にあった苦い思いも何もかも。

 すでに古びたはずの記憶が俊輔の手元を狂わせる。覚えているはずの手順が上手くいかない。それでもなんとか火を熾し、アウトドアチェアに腰を落ち着ける。

 彼の目は視線と晶が設営した古びたテントへ向けられた。現行モデルよりもかなり厚手で、使い勝手も悪い。当時ですら評判が良くなかったモデルだ。だが、学生が手を出すにはちょうどいい価格で、初めて俊輔が手に入れたテントでもあった。

 そして、アウトドアに本格的にハマった彼は一年ほどでテントを買い替え、最初に買ったテントを人に譲った。その譲った相手こそ、晶の母親だ。

 胸の奥が疼く。嫌な疼き方だ。自己嫌悪に近い感情がじわじわと気分を悪くしていく。

「……気になります?」

 不意に声をかけられ、俊輔は我に返った。

「懐かしいな。それ、俺が君のお母さんにあげたんだよ」

「へぇ」

 すぅっと晶の目が細くなる。その表情が彼女の母親に驚くほど似ていた。俊輔の心音が跳ね上がる。それに合わせるように焚火がぱちぱちと音を立てながら大きくなっていく。

 彼は自分を落ち着けようと、背もたれに体重を預けた。微かに軋む音が鳴る。俊輔の目は晶と古びたテントから逃げ出し、意味もなく空へ向けられた。いつの間にか空は朱色から薄墨色に変わり、夜の気配が色濃くなっている。

「なんだか、雲が多くなりましたね」

「そうだね。もしかしたら雪になるかもしれない」

 それきり会話が途切れ、火の爆ぜる音だけが消えていく。

「わたしも焚火を使ってもいいですか?」

「もちろん」

 我に返ったように晶が言い、俊輔は空から焚火へと視線を落とした。

 晶は自分のアウトドアチェアを取り出すと、不器用な手つきで組み立てる。真新しいそれを使い慣れていないのが見て取れる。

 彼女が苦戦している間に俊輔は自分の夕食を作る。焚火を利用するため、普段よりも出来は悪くなるだろうが、今日はその不自由さを楽しみに来たのだ。そんな楽しみ方を彼に教えたのは晶の母親だった。

 自嘲するしかない。伝えることすらなかった愛情へしがみつくように、彼女との思い出をいつまでもなぞっているばかりだ。

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