春爛漫 (Page 2)
受験本番以来久しぶりに会う馨の姿は、暖かな陽光の下で輝いて見える。
彼女は友也と同じような無地のシャツに若草色のプリーツスカートを合わせていた。 色合いとしては彼と大差ない地味さなのだが、すらりとしたスタイルと相まって洒脱な雰囲気である。
「お待たせ」
ドキマギしながら友也が言う。
「うん」
細い顎を引いて馨が頷く。それから彼女は行こうか、と告げ青灰色のショルダーバッグを肩に掛け直して歩き出す。横に並んで歩き出した友也は、ついちらちらと馨の横顔を横目で見てしまう。
細い顎のラインを上へ辿っていくと、形の良い鼻や耳、そして目に辿り着く。ともすれば鋭利な印象を与えてしまいそうな馨だが、その少々垂れ気味な目尻のため、ほんのりと雰囲気が柔らかくなるのだった。
「なに?」
見られていることに気付いたのか、前を見たままの馨に問いかけられ、友也は慌てて視線を前に戻した。
「え、あ、いや、その別に、綺麗だなって」
「お世辞とか、やめてよ」
「お世辞じゃないよ」
気真面目に返し、今度こそ視線を前に向けた友也は、隣で馨が唇を尖らせているのに気が付かない。髪に隠れている両耳の耳たぶまで真っ赤になっていることにも。
そんな二人が肩を並べて来たのは、駅前にある大型商業施設だ。この施設の最上階で映画を見ることができる。休日はフードコートなどが人で一杯になるが、平日のためか人混みはさほど出もない。
並ぶこともなく発券機で二人はチケットを購入し、シアターの座席に座る。
二人とも映画館で映画を観る時には飲み物も食べ物も購入しない。ひたすら黙ってスクリーンを見つめ続けるスタイルだ。
上映時間は近いが、平日ということもあって空席が目立つ。
座り心地のよい座席に座って二人で、白いままのスクリーンを見つめ続ける。
「あるといいな」
馨が小さな声で言う。彼女はいつもぽつりぽつりと口を開くが、その短いセンテンスの言葉が友也は嫌いではない。小さな呟きのような、囁きのような、彼女の声がじんわりと体の中に浸透する気がするのだ。
「何が?」
「映画館」
「映画、好きだもんね」
友也と馨が話をするきっかけになったのも映画だった。
偶然、友也が映画の原作小説を読んでおり、そのことで一緒に映画を見に行き、徐々に距離を縮めていったのである。
「大学の近くにもあるかな」
二人は同じ大学に進学する。学部は違うが、揃って実家を離れ一人暮しをすることになる予定だ。
生まれ育った街を離れる不安が馨の中にもあるのだろうか。友也はそんなことを思う。
「引っ越し終わったら、一緒に探そうか」
「うん」
馨が返事をしたところで照明が落ち、シアターに上映前の独特の緊張感が満たされる。
友也と馨は口を閉ざし、じっとスクリーンに視線を向けた。光の帯がうっすらと頭上を通過し、スクリーンに映像を映し出す。本編が流れる前に上映中の注意や予告編が流れ、それらが終わって、ついに登場人物がスクリーン上で動き回り出した。
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