人を狂わす青い薔薇の行方 (Page 4)

 きっと今は理解できないだろう。

 だが、いつか己の意志で生きなくてはならない時が来る。

 古賀は次いで告げた。

「あなたの名前はアトリです」

 こうして、古賀と女性――アトリの生活が始まった。

 簡単な読み書き。日常生活で必要な事柄。

 古賀はアトリに様々なことを教えていった。彼女は素直にそれらのことを吸収し、身に付けていく。少しずつだが、自らの意思決定を行う兆しも見えてきた。

 その兆候を見て、古賀は次の段階へと進むことにする。

 彼はアトリをつれて街へ出かけた。彼女の衣服を追加で購入するためだ。市街を走るバスに揺られ、郊外にある大型量販店へと向かう。

 店舗に様々な年齢の人々が訪れていた。とはいえ、平日ということで大盛況というわけではなさそうだ。時間帯のせいか、店内には少々のんびりした雰囲気が流れている。

 必要なものを購入し、古賀はアトリを伴い階段を下りていた。エレベーターを使わないことをアトリは疑問にすら感じない。

 彼は周囲に人影がないこをさっと確認し、アトリの腰を抱いた。抵抗することもなく、アトリは古賀に身を寄せる。そして、階段の踊り場まで彼女を導くと荷物を足元に落とし、そっと抱き締めた。

 アトリは彼の胸元に顔を埋める格好になるが、やはり抵抗しない。目を閉じ、アトリはじっと古賀の腕の中にいる。

「源氏物語についてはまだ教えていませんが、知っていますか? アトリさん」

 彼女は小さく首を横に振る。

「煌びやかな貴公子光源氏の物語ではなく、私は宇治十帖に登場する薫大将に親近感があるのです」

 不思議そうに自分を見上げるアトリに古賀は淡々と言葉を向けた。

「彼はその体から得も言われぬ芳香を放ったといいます。あなたや私と同じです」

 そろりと古賀がアトリの背を撫でた。それだけのことでアトリは体を震わせる。頬は紅潮し、瞳は情欲が滲み潤んでいた。

「私やあなたは香りで人を性的な興奮状態にすることができるのです。だから私は女性に奉仕し、交歓することができる」

 もじもじとアトリは内股を擦り合わせ、乳房を古賀の体に押し付けた。彼女の体からは仄かに甘い匂いが香っている。

 この相手を男女問わず発情させる香りを誤魔化すため、アトリを商品として調教していた男達は室内を別の匂いで満たした。澤木の言っていた条件付けは、発情の条件を設定し、よりこの匂いを発散させ易くするための処置だったのだ。

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