保健室にいるのは天使か悪魔か (Page 2)
ドアがノックされ、静かに開く音がした。
「桜井先生…あれ?」
小さくため息をついて、わずかに眉間にシワをよせたて香澄がささやく。
「残念。お預けみたいね」
香澄の手が最後に軽く股間をくすぐり、カーテンの向こう側へ消えた。
「井内先生。」
井内は、古典と生徒指導を担当している。
野田との楽しみを邪魔された香澄は、棘のある言い方になる。
「桜井先生。お時間、少しいいですか?」
チラッと井内が視線を送った先にある、囲われたカーテンの中から、野田があくびをしながら出てくる。
「また、サボっていたのか!さっさと、教室に戻りなさい」
井内の言葉を無視して、香澄に声をかける。
「かすみちゃん、また後でね!」
ドアが乱暴にピシャっと閉まり、保健室は大人だけの場所になった。
まだ野田の温もりが残るベッドのシーツをはがしながら、香澄が促す。
「わざわざ保健室まで、どうされました?」
両手に抱きしめた白い布に顔をそっとあてて、井内に気づかれないように若い男の匂いを嗅ぐ。
「今朝の職員会議で、重大なことが話し合われました。…性行為についてです。先週は屋外の男子トイレのゴミ箱から、使用済みの避妊具がいくつか見つかりました」
一瞬、香澄の動きが止まって、すぐにまた動きだす。
「…それで?」
「それだけではなく、体育倉庫のマットにも精液の付着や、普段は使用禁止の宿泊棟で人影を見た、という証言もあります」
新しいシーツと枕カバーをとりに小股で部屋を横切ると、白衣の裾がひらひら揺れる。
返事のない香澄に、井内がたたみかける。
「桜井先生は生徒から人気ですし、養護教諭なので…生徒から、その、こういった相談を受けているのではないかと思いまして」
清潔なシーツをふわっとマットレスにかけて、井内の方を見ずに淡々と答える。
「この年頃の生徒が、性について興味をもつのは当然のことです。コンドームも使用しているのに、何が問題なのですか?」
予想外の発言に、井内は驚きを隠せない。
「桜井先生!?…まだ年齢的に早すぎます!毎回きちんと避妊できているかどうかも、怪しいものです。それに、同意の上ではなく、強要されている可能性もあります!」
無言で手を滑らせて、丁寧にしわを伸ばし続ける香澄の隣で、井内がじっとその動きを見つめている。
枕も新しいカバーに換えて、きれいにベッドが整うと、香澄がやっと口を開いた。
「…井内先生。何にもわかってないんですね」
冷たい視線が井内をとらえ、香澄が井内の体を押し、カーテンがシャっと二人の姿を覆う。
突然のことにわけがわからず、気づけば、井内はベッドの上に座らされていた。
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