本気の声を聞かせてよ。
自由人の従兄弟の仕事は、まさかのエロ同人作家。先払いでバイト代分飲み食いしてしまった麻衣は、断り切れずにモーションコミックの声優をすることに…。台本に並ぶのは、見ているだけで恥ずかしくなるようなセリフの数々。「もっと感情込めて!」って、本番までするなんて聞いてない!
「わぁ~、こんなご飯久しぶり!嬉し~!」
私はこの春就職したばかり。
憧れの職に就けたはいいものの、なりたい人が多い分、給料はかなり安い。
奨学金の返済もあり、食費を切り詰めるカツカツの生活を送っていたから、従兄弟から『仕事を手伝ってくれたらご飯を奢る』と連絡が来た時、1も2もなく飛びついた。
「苦労してるんだなー。デザートも頼んでいいぞ」
「わーい、やったぁ~!ありがとう!」
従兄弟の春樹兄ちゃんは私の7つ上。
実家が近かったこともあり、小さい頃は兄弟のように育った。
大昔は優しくて頼れる存在だったけど、大学を出てからは就職もせずバイトで食いつないでいたようで、伯母は遊びに来るたびに私の母に愚痴を言っていた。
「…仕事の手伝いって、ハル兄、とうとう就職したんだ?」
クリームパスタを頬張りながら聞くと、春樹兄ちゃんは曖昧に笑った。
「ん?ああ、就職っていうか…自営業みたいなもんかな」
「ふ~ん。で、何すればいいの?私、何の資格もないよ」
「大丈夫大丈夫。スムーズにいけば、2時間ぐらいで終わるし」
「そうなんだ。…ねえねえ、1杯だけ、ワイン飲んでも良い?」
「しょうがないなぁ。じゃあ俺も…」
久しぶりに人と食べる、楽しい食事。
お腹が満ちた私は、晩酌用のビールなんかも買って、上機嫌で春樹兄ちゃんのアパートへとついていった。
「…ハル兄…なに?これ」
「『NTR巨乳妻~美人受付嬢は会社の備品~』。来月リリース予定で切羽詰まってるんだ」
「いや、そうじゃなくて」
簡単なナレーションの仕事だと渡された台本。
『…長年の恋を実らせ、社内結婚した夫婦。幸せな毎日を送る中、夫が仕事で重大なミス!それを庇うため美人妻は会社の性奴隷となり、取引先へ屈辱の謝罪行脚…』
というありえないストーリーのコレは、どう見てもエロ漫画。
「…え、こんなんで食べてるの?ちょっと引くわ…伯母ちゃんが知ったら泣くでしょ」
「そう言うなよ、結構人気なんだぞ。な、ほんのちょっと喘いでくれたらいいから。お前、昔から声可愛いじゃん」
「…ええ…ちゃんとした人に頼んでよ。無理無理」
「プロの声優なんて馬鹿みたいに金掛かるだろ。頼む!爆売れしたらボーナス出すからさ!」
「………」
ゴネたところで、5000円近く好き放題飲み食いしてしまったし、ボーナスというワードは魅力的だ。
「もう…下手だから期待しないでよ」
そう念を押して、私はインカムをつけ、2、3回咳払いをした。
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