彼女はコーチを甘やかしてくれる選手 (Page 2)

「呼吸器の異常、ですか?」
「はい。彼女は肺に疾患があります。手術をすれば問題ないですが、このまま放置すれば、選手生命が危うくなります」
「手術をすれば大丈夫なのですか?」
「ええ、半年ほどで復帰できますよ。それにしてもよく気付きましたね」
「コーチですから」

 医者にそう返したものの、僕はもっと早く見つけていたのに、すぐに病院に連れてこられなかったことを悔やんでいた。

「コーチは悪くないですよ。私が頑張るって言ってわがままを言い張ったから――」
「――でもそれでも僕はコーチなんだ……」

 それでも早い方が良いからと、僕は川乃を病院に入院させた。
 新人のアイドル選手が病気で大会を離脱したことは、マスコミ各所を賑わすことになった。
 もちろん、多くは若手コーチである僕を非難する声だ。
 しかし、それは甘んじて受けるしかない。
 そう思っていても辛い気持ちになることもある。
 僕は一人でコーチ室にこもったまま鬱々とお酒を飲むことが増えていた。
 そんなある夜のことだった。

「コーチ……」

 電気もつけずに缶ビールを飲んでいる僕の前に川乃が立っていた。
 確か、病院にいるはずなのに、どうしてここにいるのだろうか?

「川乃か……、お前、病院は?」
「抜け出しちゃいました」

 よく見ると川乃は入院患者が来ているようなローブ姿だった。

「お前、何やってるんだよ」
「大丈夫ですよ、手術も無事に終わりましたから暇なんですよ。それに……」
「――それに?」
「コーチが全然お見舞いに来てくれないから、心の健康が崩れそうですよ」

 咎めるような川乃の声。
 確かに僕は彼女のお見舞いに行ってなかった。

「手術の日には行ったんだから問題ないだろ?」
「そんなことありません。毎日コーチに会いたいんですよ」

 何で川乃がここまで僕を買っているかまったくわからない。
 川乃は聖母のような微笑みを称えたまま僕に近づいてくる。

「僕なんかよりももっと優れたコーチがいるだろ?」
「そんなことありませんよ。コーチじゃなきゃダメなんです」

 そう言って、川乃は僕を抱きしめる。
 Hカップの胸に包まれ、妙に心が穏やかになって来るのを感じていた。
 ふと川乃の顔を見る。
 そこでハッと気付いた。

「コーチ、ゴメンなさい……」
「何でお前が謝るんだよ。悪いのは僕だろ?」
「違います。私の体のせいで」
「良いんだよ。駄目なときは僕が被る。それがコーチの役目だよ」
「……だからですよ。だからコーチじゃないとダメなんです」

 そう言うと、川乃は僕に口付けしてきた。
 舌が差し込まれ、くちゅくちゅと自分の舌を絡ませてくる。
 なされるがままだった僕は、訳が分からないままそのままになっていた。
 しばらく立ってようやく解放される。

「これが私の気持ちです。わかってくれましたか?」
「……ああ、流石に分かったよ。でも、なんでなんだ?」
「分かりません。でも、恋ってそんなものでしょ?」
「そうかもしれないね」

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