結婚相談所の罠

・作

結婚相談所に通う西宮京香は登録して半年になるが、プライドの高さからいまだにカップリングに至ったことがない。アプローチをかけてくる男性にダメ出しばかりする西宮だが、その容姿端麗な姿とは裏腹に男性経験を一度もしたことがなかった。処女であるということが西宮のプライドの高さをさらに強くしていたのだ。そんな彼女に結婚相談所のアドバイザーの永田雄太は “受けた人は必ず成婚する” という特別プログラムを受けてみないかと持ち掛けてきた。西宮は半信半疑ながらも受けることに同意したが…

 結婚相談所。

 そこは結婚を希望する男女が集まり、互いに見合った相手を探す場所だ。

 昔はお見合いで親同士が決めた相手と結婚するというのが当たり前だったが、好きな相手と結婚することが許される現在では、こういった場所で自ら好きな相手を探すことが主流になっている。

 結婚相談所の特徴と言えばプロのアドバイザーが付いていることであり、アドバイザーは悩める相談者たちを成婚へと導くのが仕事だ。
 そして東京のとある地区に位置するエンゼル結婚相談所に勤める永田雄太もそんなアドバイザーの一人だった。
 
 「それで西宮さん。今回のお相手はどうでしたか?」
 
 「全然だめ!初回のデートなのに安いレストランに連れていかれて大して面白くもない話ばっかり聞かされたの!!」
 
 結婚相談所のとある一室で、永田は先日登録者同士の初回デートを終えた西宮京香の話を聞いていた。
 長いウエーブのかかった髪を明るい茶髪に染めた西宮はいかにも不満げな顔で永田を見ていた。すらりと伸びた足を椅子の上で組み、下着が見えそうで見えないくらいギリギリのラインのスカートを身に着けている。苛立たちげに組まれた腕の間からは豊満なバストが見えており、釣り目気味だが整った顔はいかにも女王様という言葉がよく似合った。
 
 「…確かお相手は有名企業のS社に勤めていましたよね?年収も1000万以上。顔も石宮さん好みの顔だったと記憶していますが」
 
 「…顔も年収も良かったけど、初回のレストランにお金かけてくれないなんて信じられない!この私がデートしてあげてるのに!!」
 
 西宮はこれまでたくさんのデート申し込みがあったのにも関わらず、一度もカップル成立に至っていない。
 理由はいたって簡単で、見た目通りのプライドの高さと相手への条件に妥協を許さないところだ。
 その性格が災いし、いまだ結婚するめどが立っていない。

 「…そうですね、西宮さんには特別プログラムを用意してあげた方がいいかもしれませんね」
 
 「…?なによそれ。特別プログラム?」
 
 「はい、わが社はどんなお客様に対しても平等に相談を受け、アドバイスを行い成婚に導かせていただいています。普段は言葉と相談者様とのフィードバックでアドバイスをさせていただいておりましたが、特別プログラムではより相談者様が成婚するためのレッスンを行わせていただいております」
 
 「あ、そういえば入会の時に説明されたわね。100%成婚できる特別プログラムって」
 
 「はい、もし契約に同意していただければ次回から早速行わせていただきますが」
 
 西宮は椅子の上で足を組んだまま、少しだけ考えるように眉をひそめた。綺麗にメイクの施された顔。長く伸びたまつげ。事前に登録された内容では、西宮の家はかなりの資産家のようだった。おそらく両親から可愛がられて育ったのだろう。静かに座っているときの西宮は気品に満ち溢れたペルシャ猫のような雰囲気をまとっていた。
 そんな西宮がこれから経験するかもしれないことを考えると、永田は心が躍るような気持になった。
 
 「…受けるわ。その代わり必ず成婚させてね」
 
 「わかりました。では今書類を持ってきます。特別プログラムは途中でやめることができませんのでよろしくお願いいたします」

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