胸の花が綻ぶと (Page 6)

「オレ、汐里さんのこと、好きです」

 汐里は息を呑む。

 藤馬は笑む。軽やかに、心の底から。

「もっかい、言いますね。オレ。汐里さんが好きです」

「いいの……? 私は藤馬君より年上だけど……、とても面倒くさい女よ?」

「全然大丈夫っす。オレ、めんどくさいとこも汐里さんのこと好きなんで」

 ぽろりと汐里の目から涙が零れる。

 彼女の指先で涙を拭い、藤馬は耳元に囁く。

「オレのことは、――好き?」

 こくんと子どものような仕草で汐里は頷いた。

 もっと嬉しくて堪らないものだと藤馬は思っていた。けれど、汐里に恋をした彼の心はじんわりと潤い、静かに静かに愛しさで満たされるばかりで、弾けるような感情はない。不思議と穏やかに藤馬は汐里の髪を撫でた。こんなに愛おしいのに触れて壊してしまわないように、彼は抱き締めることすら躊躇う。

「嬉しい」

 藤馬はどこかしみじみとした口調で呟き、汐里と手を重ねた。

 濡れ光る瞳で彼女は藤馬を見つめている。何を見て、何を聞いて、何処に行きたいのか、もっと知りたい。藤馬は切に願った。

「オレ、もっと汐里さんのこと知りたい」

「幻滅するかも」

「いいよ。聞かせて」

 ぽつぽつと二人は言葉を探しながら、これまでのことを話した。そして、これからことも。

「そういえば」

 と、藤馬は鞄を漁った。

 彼は汐里から借りたままだった本を取り出した。

「君が持ってたの」

「うん。借りっぱだった」

 彼から本を受け取り、ぱらぱらと汐里はページを捲る。

「この続き、気になる?」

「なる」

 藤馬は即答した。ずっと書店を巡っていたが、どうしても続刊を見つけられなかったのだ。

「これ絶版だし、あんまり部数も多くないのよ」

「マジか。古本屋とかにもなかったんすよね」

「探し方が悪いんでしょう。だってそこまで希少な本じゃないわよ?」

「じゃあ、今度探し方教えてよ」

「もちろん」

「でもさ、続きは汐里さんが持ってるんだったら貸してよ」

「それはいいけど、今は持ってないわよ」

「じゃあ、今から取りに行く」

 言うが早いか藤馬は伝票を持って席を立ち、会計を済ませてしまう。

 呆れている汐里に案内され、彼女の家まで移動する。初めて一緒に電車に乗り、知らない街の道を歩いて、汐里が住むマンションに辿り着いた。

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