息子のいぬ間に

・作

長瀬颯太と葵は、まだ若い夫婦だ。2人の間には3歳半になる息子がおり、可愛い盛りではあるものの2人は育児に振り回される日々を送っていた。そんなある日、颯太の母から孫と一緒に出かけたいという申し出を受ける。義父母に面倒をかけることを申し訳なく思う葵だったが、夫の「たまには2人で過ごしたい」という言葉に忘れていた欲望を呼び覚まされ、義父母に1日息子を預けることにした。2人きりになった途端、颯太は欲望を抑えきれず…

「それじゃ、今日は晩御飯まで一緒に食べてくるからね」

「本当にありがとうございます、お義母さん」

自宅に来た義母に、普段よりワントーン高い声で言って長瀬葵は頭を下げた。

「いいのよ、私たちが斗真くんと遊びたかっただけだから。こちらこそわがまま聞いてくれてありがとうね」

「斗真、じいじとばあばの言うこと聞くんだぞ」

葵の隣で、夫の颯太が息子に声をかける。
玄関先でじいじ、つまり颯太の父と手を繋いでいる息子の斗真は、3歳半の小さな身体いっぱいに喜びを充満させて大はしゃぎだ。

「うん!じいじ、ぽっこ、食べようね!」

「ポップコーンかな?よし、いっぱい食べよう」

久しぶりに会う孫にまなじりを下げて、颯太の父は答えた。
これから祖父母が連れて行ってくれるテーマパークの名物であるキャラメルポップコーンは、斗真が昨晩から楽しみにしている大好物だ。

「それじゃ、行ってくるからね」

「はい、よろしくお願いします」

「何かあったら連絡して」

「わかってるよ」

祖父母に連れられて息子が家を出ると、しばらくぶりの静寂が室内に訪れた。
颯太と葵は顔を見合わせると、くすくすと笑い合う。

「静かだね」

「急にな」

「ふふふ」

3歳半の息子の育児は正直毎日バタバタで、明るい時間にこんな風に部屋が静かになるのは本当に久しぶりだった。

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