大家さんは未亡人 (Page 3)
いつもとは違うそっけないそぶりで、早くこの会話を終わらせようとしているようだった。
そして亮が何か言う前に、早苗はドアを閉めてしまった。
それは明らかに「事後」の早苗の姿だった。自分が大家をつとめるアパートの一室に男を入れて、セックスをするような女性だとは思っていなかったし、普段のおっとりとした優しい雰囲気とは別人のようないやらしい姿にあてられたというのもあって、亮はしばらく呆然としていた。
自分の運営するアパートの住人に知られる可能性を考慮しなかった点はまずいとしても、早苗に恋人がいたからといって誰かが責められるわけではない。
亮はショックを受けながらも、裸同然の早苗の姿を思い出しては何度も自分を慰めた。
そして、付き合ってる人がいるんならそれは仕方がないことだなと、自分に言い聞かせた。
しかし、それを見てから2週間後、新たに衝撃の事実が発覚した。
帰宅時間が重なって挨拶を交わした隣の部屋に住む男の靴が、あの日早苗の家の玄関で見たものと全く同じだったのだ。
黒ではなく焦茶の品のいい革靴で、亮も好きなブランドの靴だったしあまり見かけない型のものだから間違えるはずはない。
その男が普通の勤め人でないことはファッションなどを見ればわかる。そして30になる早苗より10は年上だろう。口に出すのは憚られるが、お世辞にもハンサムだとかイケメンだとか言える容姿でもない。
早苗さんはこんな男と?
こいつが早苗さんを抱いたのか?
そう思うと亮は全身の血が逆流するような怒りを感じた。
そしてその日から、亮はどうしても早苗にこのことを直接確認したいという思いに支配されるようになったのだ。
あんな男が早苗さんと付き合えるのなら、イチかバチかでも、玉砕覚悟でも、自分もアプローチしていれば良かったという後悔が亮を急きたてているのかもしれない。
早苗に交際相手がいたとしても、それが見るからに自分の敵わない相手ならここまでの激しい感情は生まれなかったかもしれなかった。
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