離婚の理由は

・作

小野大志は、同窓会で高校時代に憧れていた女教師の横山紗良と再会した。当時新任教師だった紗良は多くの男子生徒にとって憧れの存在だったが、大志の在学中に同僚の教師と結婚していた。しかし久しぶりに同窓会で会った紗良が離婚していたことを知り、大志は当時の恋愛感情が蘇ってしまう。トイレに行ったタイミングですれ違った紗良と大志。感情が抑えきれず離婚の理由を尋ねる大志に紗良は全てを見透かしたような微笑みを向けるのだった…

「え、先生離婚したんですかぁ?」

小洒落た居酒屋の広い個室内、同窓会中に別テーブルで話していた女子グループの中から高い声が上がった。
それが聞こえていたのは、小野大志が離れたテーブルの会話に耳をそばだてていたからではなく、その驚いた女子の声が大きかったからだ。

個室内にあるいくつかのテーブルはそれぞれに、その情報を聞いてざわつき始めた。

「紗良先生、離婚したんだ…」

「え、相手って…」

「田上だろ、体育の」

「ああそうだったわ、あの時はショックだったよなぁ」

「そうそう、紗良ちゃんがあのゴリラと…ってな」

大志が高校に入学したとき、新任で彼らのクラスの副担任になった横山紗良が結婚したのは、大志たちが2年生の夏休みのことだった。
新任から自分たちと一緒に過ごした紗良のあまりに早い結婚にがっかりした男子生徒は当時多かった。
若い女性教諭であった横山紗良は、その愛らしいルックスもあって男女問わず人気があり、何事にも一生懸命取り組む姿が生徒から好かれていた。

大志はテーブルで紗良の話題が盛り上がる中、自分のざわつく気持ちをどうにか押し殺そうとしていた。

 

 

大志も、紗良に好意を抱いていた男子生徒の1人だった。
当時は本気で彼女に恋をしていると信じていた。
しかし20代も半ばになった今では、あの頃の感情は若さ故の憧れと、どこにもぶつけられない若い性欲を持て余したあまりの感情だったのだろうと思える。

ただ、普段だったら参加しないだろう同窓会に行こうと思ったのは「紗良が来る」という情報を聞いたからで、そうしてしまう程度には、自分はまだ紗良に執着しているのだと理解した。

 

 

同窓会が始まった時から、実のところ大志は紗良が指輪をしていないことに気がついていた。
だから離婚したと決まる訳ではないが、紗良がいるテーブルから聞こえてきた先ほどの声を聞いて、やっぱりかと大志は思った。

紗良はあの頃より少し疲れたような印象があったが、あの頃と変わらず笑顔は可愛らしかった。
30を少し過ぎて、当時のような溌剌とした雰囲気はないものの、豊かな肉付きからは女の色気が増して感じられた。

 

 

紗良先生が離婚したからって、自分が何かできるわけではない。
わかっているのに、どうにも手が届かない存在ではなくなった紗良に、大志は再びあの若い日々の欲望が湧き上がってくるのを覚えていた。

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