先生の欲望
フリーランスで在宅仕事をしている高崎純一は、マッチングアプリでセックスの約束をした女性との待ち合わせのため、地元から車で1時間半かかる隣県の中規模都市に向かった。しかし、そこに現れたのは地元で甥っ子が通う保育園の担任である水谷桃香だった。たまに甥っ子のお迎えに行く純一は桃香と何度も顔を合わせていたのだ。アプリでのやり取りでは欲求不満の淫乱な女性だった桃香は真っ青になるが…
高崎純一が県境を跨いだ先にある中規模都市に車で向かっていたのは、マッチングアプリで知り合った女性とセックスをするためだった。
隣県在住のその女性は20代半ばで欲求不満、セフレ探しとアプリのプロフィールに書いてあり、大きな胸を強調したようなプロフィール写真にそそられて純一はメッセージを送った。
どう考えてもサクラか、怪しい業者を疑うべきところではあるが、やり取りの中で別のサイトに誘導されることもなく、金銭が絡む話題も出ず、とんとん拍子に会う日程まで決まった。
純一は車で1時間半かけて会いに来てみたものの、ドタキャンやブッチされることも少し覚悟はしていた。
あまりに話がうますぎるからだ。しかしそれでも
〈とりあえず食事とかしますか?〉
〈直ホテルでいいですよー〉
と、こんなやり取りがあれば、目的地に向かううちから期待で半分勃起し始めても仕方がないだろう。
「もも」と名乗るその女性はアプリ上で顔写真は載せていなかった。
しかし20代の爆乳とセックスできると思えば顔などどうでもいいとさえ純一は思った。
純一は30過ぎて結婚しておらず、仕事もそこそこ忙しくそっち方面はとんとご無沙汰だったのだ。
待ち合わせ場所のショッピングモール駐車場に着く頃には、純一はふくれあがった興奮が抑えきれなくなっていた。
近辺のラブホテルは調べてある。
駐車場で待ち合わせて、純一の車に乗ってもらってホテルに向かう手筈だ。
〈着きましたよー、白いセダンです〉
アプリからメッセージを送ると、すぐに既読マークが付いた。
〈わかりました、向かいます〉
割と人気の少ないその駐車場で、こちらに向かってくる人影があるのが車内からも確認できた。
だんだん近づいてくるその女性が、期待通りの爆乳で身綺麗な人だとわかったその少し後、純一は気づいた。
その女性が自分の知り合いであることを。
「ももって…あ…」
純一は思わず車内でつぶやいた。
まさか隣県で知り合いとマッチングするとは思っていなかったが、隣県を設定すれば知り合いとマッチングしないだろうと思ったのは向こうも同じだろう。
そして、知り合いと絶対マッチングしたくないのは彼女の方だと純一は瞬時に理解した。
彼女はまだ車内の人物が知り合いだと気づいていない。気付いた時点で逃げるかもしれない。しかし口止めしたい気持ちの方が勝るのではないか。
純一がマスクをしているためか、彼女は助手席の窓の前に着いてもまだ中の人物が知り合いだと思っていないようだった。
いや、知り合いというほどの間柄でも実際はないのかもしれない。
助手席の窓をコンコン、と彼女が叩いたので、純一はドアを開けて中に乗るように仕草で促す。
「じゅんさん、ですか?」
「はい、ももさん…いや、桃香先生」
「えっ」
水谷桃香は車のドアを開けて乗り込もうとした動きをピタッと止めた。
そして怯えるように純一の顔の方を見た。
「まさか桃香先生があんなアプリでエッチな出会いを探してるなんてねえ…」
マスクの下でにやりと笑って純一は言った。
「ひかるくんの…」
「あ、覚えてくれてました?」
笑った軽いテンションのままマスクを外して純一は桃香の顔を見つめた。
力が抜けたように助手席に身体を沈めた桃香の顔は青ざめている。
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