宅飲み不倫 (Page 2)

「手伝うよ」

食器を洗う香織の元に、テーブルに残っていた皿を持って敬介がやって来た。
香織は少し警戒したように肩をピクリと動かした。

「ありがとう、でも大丈夫だから」

「つれないなあ」

にやりと笑って言った敬介は、皿を流しに置くとそのまま洗い物をする香織の手首に触れた。

「っ、ちょっと…何するの」

香織は嫌悪感を浮かべた表情で敬介を睨んだ。
敬介は笑顔のまま、香織の後ろに回って腰を抱き、後ろからかがみ込むようにして香織の耳元で囁いた。

「稔には言ってないんだろ…あの頃のこと」

後ろから手を回されたことで、流し台に縫いとめられる形で身体を固定されてしまった香織は、強ばった顔でそれでもなんとか受け流そうとした。

「なんのことだか、わからない」

「それはないでしょ、俺は忘れらんないなあ、香織の乱れっぷり」

香織は絶望を感じていた。
思い出したくない記憶が次々と蘇って、敬介を拒絶しようと思うのに少しも動くことができなくなってしまった。

 

 

敬介と香織は、同じ東京の大学に通っていた。
稔は全く異なる地域の大学にいて、その当時敬介とほとんど交流がなかったため知らないが、敬介と香織には肉体関係があったのだ。

敬介と香織は恋人ではなかった。しかし大学生当時の2人は頻繁に会ってはセックスをしていた。
初めてのひとり暮らしで浮かれていたとも言えるし、東京で暮らす不安を同郷の人間で埋めたかったとも言える。
単純に若さと溢れる性欲を互いにぶつけ合っていたとも言えるだろう。

香織にとって敬介は、ほとんど経験のなかった自分の性感をすべて開発した男だ。
就職して地元に戻ってからは敬介と会うことはなくなっていたが、稔と結婚してからなにかと連絡をよこしてくるようになった敬介に対して警戒していたはずだった。
しかし今夜は稔も一緒だから大丈夫だろうと気が緩んでいた。
そして捕まってしまったのだ。

 

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