新入社員が天才な牝犬だった件 (Page 8)
「んひゃっ!」
由紀が驚いたように唇を離し、俺を見つめた。
俺はその目に微笑みを返す。
「今日は最後まで、な」
由紀がハッとしたように目を見開き、びっくりするほど眩しい笑顔を作った。
「せんせ、私、私い」
涙をポロポロと溢れさせる声を聞きながら、俺は教卓に置いていた『清掃中。使用禁止』の札を手に取って彼女に見せる。
由紀の目が後ろめたいことがあるかのように泳ぎ、視線を逸らした。
これは、あのときトイレにかかっていた札だ。
彼女はどうやってか俺の就職先を見つけて求職し、わざと俺にぶつかり、わざと秘部を晒してトイレに連れ込ませ、指を舐めてその気にさせて、あの頃のことを思い出させたんだ。
そして、ふたりの秘密の授業を再現させた。
俺にもう一度チャンスをくれるために。
「……ごめん、なさい」
「ああ、許さない。もう我慢しないから、覚悟して」
「っ! ……ふぁいい」
*****
彼女が作った指導案は完璧だった。
正直なところ、俺が今まで作ってきたものとはレベルがぜんぜん違う。ベテランの講師が作ったものと言われても遜色ない。
むしろこんなものを僅か数十分で作ったんだから、それ以上の実力があるのは間違いないだろう。
「由紀って、やっぱりすごいな。本当にS大に行ってないの?」
「ん、んん! んふう」
周りに職員がいる中で、由紀は嬌声を漏らしながら俺に身体を寄せかけては離れるということを繰り返しながらコクコクと頷いた。
俺はハッとしてポケットの中のリモコンに手を伸ばし、オフボタンを押す。
「ん、んふぁ、ふう、ふう、ふう……」
彼女は机に突っ伏すようにして大きく息を吐き、潤んだままの目を俺に向けて微笑んだ。
その目には安心するようでいて非難する色が見える。
「……ごめんなさい。せんせじゃないとうまくいかなくて。……適当な大学に入って、教職免許だけとったの」
「そ、そうか」
独占欲を刺激する台詞と甘い声音に、俺はそう答えるのが精一杯だった。
周りの職員や教員が慌ただしく働いている中、俺は「ちょっと休憩するか」と伸びをして立ち上がる。
自然と由紀も立ち上がり、俺の後ろについてきた。
周りの連中が、「飼い主にべったりの子犬のようだ」と揶揄しているのは、こういうところを見てのことだろう。
しかし、本当のところ、彼女は子犬ではない。
子犬の頃から調教された、盛りの付いた牝犬だ。
(了)
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