恋と呼ぶには近すぎる (Page 4)

「あー、じゃんけん」

「いいぞ」

 晴稀の提案に龍之介は飛びついた。暑い。とにかく不毛な言い争いを辞めたいという考えで頭の中は一杯になっている。

「さいしょは、ぐー」

「じゃんけん」

「ほい」

 チョキの形にした手を見つめながら、わなわなと晴稀が震える。それを尻目にさっさと龍之介は着ているものをを脱ぎ捨て、風呂場へと踏み込んだ。

 すぐさまシャワーを浴び、汗を洗い流す。お湯を浴びる気などさらさらない。冷たい水が体を流れ落ち行く感触が心地良かった。一息ついた龍之介は湯船に水を溜める。水風呂で落ち着こうという算段だ。

「おー、いいじゃない。水風呂」

「あぁ?」

 声に振り向くと、真っ裸の晴稀が風呂場に侵入している。

「待ってろよ。狭いんだから」

「尻の穴の小さいことを言いなさんな」

 言うなり晴稀は湯船へ片足を突っ込んだ。

「せめて体を流せ」

 彼女の肩を掴み、龍之介は頭から流水で流す。

「冷たっ」

 水流が晴稀の白い体を伝って落ちていく。龍之介の体と違い、柔らかな曲線で構成された体が文字通り手の届く場所にあった。いつの間にか短くされていた彼女の髪が、うなじに張り付いている。顔だけ振り返って笑う晴稀の細めた目に、龍之介は高校時代を思い出した。

 身を寄せ合うように狭い湯船に浸かり、水がぬるくなった頃に二人揃って風呂場を出る。晴稀は勝手に取り出した龍之介の服を着てサイズが合わないと文句を言う。

 それを適当にあしらい、彼はコンビニで買ったアイスを持って、エアコンによってすっかり冷えた部屋へ戻った。龍之介がテレビをつけると、観たこともない映画が放送されていた。妙にチープな内容に二人は笑いながら画面を見つめた。

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