ワンチャンつながる (Page 3)
「推し」という軽い言葉で隠しながら、自分がどれだけ恭平を性的な目で見ていたか。
彼に抱かれる妄想でどれほど自分を慰めてきたか。
それを思い返すと、今現実に恭平に抱かれるかもしれない予感に両脚は甘く痺れる。
しかしそれと同時に、今日抱かれてしまえば自分が本当に持っていた彼への恋愛感情をはっきり自覚することになり、そして自分が決して本命にはなり得ない辛さを抱えなければならないという悲しみが襲ってくる。
それがたった1回でも、好きで好きでたまらない相手になら抱かれたい。
でもその後現実に戻るのは苦しいだろうと思うと恐怖も感じる。
夢を見たと思えばいい。
でも虚しくなるだけかもしれない。
あんなハンサムとセックスできる機会はそうそうない。
でもセックスしたら愛されたくなってしまう気がする。
したい。怖い。したい。怖い。
ぐるぐる考えている沙織の腰に恭平は手を回し、2人はレストランを出た。
耳元で恭平は「嫌だったらすぐに言って」と言ったが、沙織は結局拒絶できなかった。
触れられた瞬間、とろりと自分の欲望が溢れ出して恐怖を上回ってしまったのである。
*****
2年ほど前にできたばかりの新しいシティホテルの部屋に入るまで、ほとんど言葉を交わさなかった。
レストランを出る時に言った「嫌だったらすぐに言って」という言葉を恭平はタクシーの中でも繰り返したが、それだけだった。
「ホテルに行こう」とも「セックスをしよう」とも言わないが、拒否権を明確に渡す上手い同意の取り方だ。
年齢を重ねて恭平は、上下関係のある相手とのセックスも多く経験するようになったが、相手が断れない関係性で強引に事に持ち込むのは非常に面倒だと肌感で理解している。
最も、明らかに自分に好意を持った相手しか誘わなくなって随分経つので、この見立てが外れることはないのだが、万が一にも嫌がっている相手とセックスしないで済むように、恭平は必ず女性が断る隙を作っている。
相手のためでも、自分のためでもあるからだ。
恭平がジャケットを脱いでネクタイに手をかけながら振り返ると、沙織は部屋の入り口付近に立ってこちらを見ていた。
沙織が自分に抱かれることを望んでいるのはもちろんわかるが、どう動いていいかわからないというところだろう。
思っていたとおりのうぶな反応に恭平は上機嫌になる。
恭平は沙織の方に近づいていった。威圧感を与えないようにゆっくりと。
そして向き合って沙織の指をそっと握り、情欲を込めた目でじっと見た。
今にもキスをしそうな距離で見つめ合うと、沙織の瞳がどんどん潤んでいくのがわかる。
恭平が能動的な動きを見せずにじっと見つめていると、我慢できなくなった沙織が自分から恭平の手に指を絡ませる動きをわずかにした。
そして目を沙織が目を逸らそうとした瞬間、恭平は沙織の唇に吸い付いてキスをした。
丁寧
描写がいつもより丁寧ですね。
カオル さん 2023年12月3日