すべてが崩れ落ちるとき (Page 3)
私たちは5回連続でセックスを続けたあと、さすがに根をあげてベッドに倒れこんだ。
私は中に出されてまだ疼いているあそこを閉じながら、「もし、赤ちゃんができたらどうする?」と彼に囁く。
「その時は、もちろん責任を取るよ」
ドン引きするほど歯切れよく彼が答えた。
きっと、今まで何十人もの女の子にそうやって答えてきたのだろう。
「結婚する」とも「中絶させる」ともとれるような言い方で。
「私、孝仁さんと結婚したいなぁ」
筋肉質な腕に自分の華奢な腕を絡めながら言うと、彼は
「俺も、ミズキと結婚したい。あいつとはいずれ、別れるから」
と言って指切りをした。
本気でも、冗談でもよかった。
その後、彼は朝イチで遠方に出張だからと部屋を出て行った。私は宿泊するだけの料金を払ってもらっているため、そのまま残ることになっている。
彼のセクシーな唇にキスをしてから、私たちは手を振って別れた。
多分、もう二度と会うことはないだろう。
一人きりになったラブホテルで、私は部屋の隅々に隠すように設置した4台のカメラを回収した。
そして、彼と自分の結合した性器が大写しになっているところや、泣いている私にオモチャを挿入しているところを写真としてプリントし、残りの動画はDVDに焼いて茶封筒に入れた。
彼の、妻に送るために。
ほとんど人通りのないオフィス街にあるポストに封筒を投函すると、ゴトンと重い音がした。
別に、彼に対する恨みは何もない。
夫が会員制の出会い系サイトで知り合った女を抱いていることも知らずに彼の帰りを待ち続けている、私を産んだ女が憎いだけで。
今でも思い出す。
子供に食事を作るどころか、洗濯や掃除なども一切せずに、自分だけめかしこんで夜の街に出かけていくあの女の姿を。
お腹が空いたと言って泣いている妹のために、コンビニの裏で廃棄されたお弁当を盗んだ私を「意地汚い泥棒猫」と言って気絶するまで棒で殴ったあの女の顔を。
あの女は、孝仁さんと出会ったことで生まれ変わったように大人しくなったようだ。
家事も育児も完璧にこなし、置き去りにしてきた子供たちのことは何も言わず。
それならば、その愛してやまない夫を奪ってやろうと思ったのだ。
そのために、2年を費やしてここまでやってきた。
あの女が封筒を開くと、一番上には潮を吹いている私の写真が出てくる。
それが、あの女のすべてが崩れ落ちる時なのだ。
壊れてしまえ、すべて。
私は小さくため息をつくと、セックスのしすぎでだるい身体を引きずって家路へと急いだ。
(了)
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