やけ酒の末に (Page 3)
「ミキ………」
思わず元カノの名前が口をついていた。
俺の言葉に胸にしなだれかかっていた女が反応する。
「それってフラれた相手の名前?」
「……………」
「ふーん…………」
女が顔をあげる。
俺の目を覗き込むように見下ろしてくる。
「じゃあ今晩は私のことミキさんだと思って抱いてよ。それならお兄さんも気持ちよくなれるでしょ?」
なんなら目をつぶって抱けばいいし。
女はそう言うとまた腰を振るのに集中し始めた。
ミキ………
女に言われ、ミキの顔が脳裏に強く浮かんでくる。
こんなことをしたってミキが帰ってくるわけでもないのに、今はただ胸の奥を締め付ける苦しみから逃れるように目をつぶった。
そうするとミキと行為を行っていたときのことが鮮明によみがえってくる。
ミキの声も、イク寸前の表情も、柔らかい乳房も。
「あっ……あん、あっイッちゃう」
他人の声。
見知らぬ女の声。
それでも記憶のなかのミキと張り合わせれば、まるで目の前にミキがいるようで…気づけば俺は彼女の中で射精していた。
熱い体温。
酒の匂い。
中出しの快感。
泥の中で眠るように、俺はそれらに身を任せた。
朝。
がんがんと鳴り止まない頭痛で目が覚める。
ぼんやりと辺りを見渡して、自分が今どこにいるのか分からなくなる。
くしゃくしゃに乱れたシーツ。
脱ぎ散らかされた衣服。
隣には誰かがいたような残り香を感じた。
俺は昨日彼女にフラれて…酒を馬鹿みたいに飲んで…それから…
知らない女とセックスした。
はっ、と思い出して女を探すが部屋の中には俺以外誰もいない。
ふと、ダッシュボードの上に小さなメモ書きが置かれているのに気がつき手に取る。
『よく寝ているので先に帰ります。寂しくなったらいつでも連絡ください』
そう書かれた文章と共に番号が走り書きされていた。
俺はそのメモ書きを手にしながらしばらく考えるようにベッドサイドに座り込んでいた。
名前も知らぬままセックスをした相手。
連絡を返さなければ二度と逢うことはないだろう。
二日酔いで痛む頭を抱えながら、俺はしばらく悩んだのちメモ書きに書かれた番号をスマホに登録した。
(了)
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