雪女に殺されたい (Page 2)
夜が明け切る前に目を覚ますと、窓の外にはふっくらとした牡丹雪がしんしんと降っていた。薄暗い空に溶けていくような白い色が美しかった。
テーブルの上に宿泊代として二万円だけ置いて、荷物も上着も持たずに俺は部屋を出た。ぎしぎし鳴る古い廊下は凍えそうなほど寒かった。
旅館の戸口の前には、女性というより少女というように見える、おそらくまだ制服を着ているであろう年端の女が背筋を伸ばして座っていた。
まさかこんな時間にいるとは思わない先客がいたので、ぎょっとして立ち止まる。
腰ほどまで伸ばされた艶のある黒髪。降りしきる雪と見紛うほどに真っ白な肌。ほっそりとした首筋。彼女を構成するすべてのパーツが、凡人のそれよりも遥かに上等だった。
ちらりと彼女はこちらを見た。射抜くような、すべてを見透かしているような眼差しだった。
作り物のような美しさといい、血色の感じられない頰といい、彼女が人間だとは到底思えない。
雪女だ、と思った。
「あなた、死ぬつもりなんでしょ」
小さく赤い唇が開き、少し低めの声で話しかけられた。
「そんな薄着でこんな雪の中、お散歩でもするつもり?違うでしょ?」
彼女は立ち上がり、一歩ずつこちらに近づいてきた。近づいてきた彼女をよく見てみると、人形のように整った顔ではあるがまだ幼さが残っていて、胸が高鳴った。可愛い。すごく可愛い。
「ねえ、聞こえてるの?」
いやいや、死のうと思っているのに何を俺は女の子相手に呑気にときめいているのだ。そんなことしている場合ではないだろう、となるべく彼女の顔が目に入らないように視線を下へ向けると、重たそうな豊かな双丘が目に飛び込んできた。だめだ、どうしよう、これから死ななきゃいけないのに、堪らなくムラムラする。
慌てて視線を今度は上に向けると、切れ長な奥二重の眼でじっと見つめられた。まぶたの奥に収まっている黒目は潤んでいて、彼女がゆっくりと瞬きするたびに星屑を散りばめたようにちらちらと煌めいていた。
「……きみは、雪女なの?」
彼女はなにも言わなかった。もうどうにでもなれと思い、肉付きの薄い、冷たい手を引く。抵抗せずに、彼女は俺についてきた。
海に入って死ぬつもりだったが、雪女に凍死させられるのも悪くない。この女に殺されたい。
滑り込むように自室に入ると、敷いたままだった布団の上に彼女を押し倒した。
馬乗りになって、両手を彼女の頰に添えた。斜め上を向かせ、視線を合わせる間もなく唇を重ねる。
「ん……」
堅く閉じている柔らかな唇を舌で軽くなぞると、すぐにほどけて彼女は俺の舌を受け入れた。熱くて少しざらついた舌と舌を、ねっとりと絡ませる。
浴衣の合わせ目から手を入れる。意外にも雪女は下着をつけていた。
とてもよかったです。次の作品も楽しみです。
匿名 さん 2020年11月7日