20年の時を経て (Page 3)
と、俺は1つ妙案を思いついた。そして、セカンドバッグから俺の名刺を取り出すと、
「佐恵子、君、家事はできるかい?」
と訊いた。佐恵子は不思議そうな顔のまま答えた。
「はい、一通りは…」
「俺、自宅でデザイン事務所をやってるんだよ。俺、独身でね?事務所も家も散らかってるんだ。佐恵子、君、住み込みで家政婦をやらないかい?部屋は2部屋ぐらい余ってるから、自由に使ってもらえばいいよ!お給料はたくさんは払えないけど、それでも普通のOL並みの給料なら保証するよ!!」
折れば一気にまくし立てた。
「荷物は全部着払いで送ってもらったらいいよ!どうだい?考えておいてくれないかい?」
佐恵子はしばらく無言で名刺を名刺を見つめ、そして微笑みを浮かべながら答えた。
「はい、考えておきますね。母のことが一段落ついた後になるので、少しお時間をいただきますけど」
「そうか!良かった!待ってるよ、よろしく!」
俺は服を着て、佐恵子に導かれて個室を出た。
3.奇妙な生活のスタート
あれから10日ほど経っただろうか?
ピンポーン!
ドアのチャイムが鳴った。
「はい!」
「『佐恵子』です!いいえ、葉月の娘の美月です!」
佐恵子、いや、美月はボストンバッグを1つだけ持ち、ドアの前で微笑んでいた。
「やあ!来てくれたかい!待っていたよ!」
美月はニコニコしながら答えた。
「母が他界して、住んでいた市営住宅を明け渡さなきゃならなかったんです!荷物は後日届きますが、今日からよろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げた。そう言えば、私服姿の美月は、とてもセンスが良かった。
「先生のお名刺を見て、あっ!と思ったんです!デザイナーの北岡先生だったんですね!憧れの先生の一人だったんです!実は私、高校は美術系のところを出てるんです!家政婦と言わず、住み込みの弟子として、私を鍛えてください!!」
逆に俺のほうが面食らってしまった。美月が俺の弟子になるのか?ま、そういうもの悪くないか。俺は何だかおかしくなって、苦笑いした。そんな俺に構わず、美月は飛びきりの笑顔を崩さなかった。
「私の部屋はどこですか?とりあえず、このボストンバッグだけは片付けたくて!」
美月は首を傾げて言った。俺たち親子の奇妙な生活は、こうして幕を開けたのだった。
(了)
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