乙女は兄のために処女を捧げる

・作

藤井充姫は兄のことが大好きなお嬢様。しかし、兄の獅朗は無実の罪で警察に連行されてしまった。そんな兄を救うために、充姫は大嫌いな幼馴染みの真沙貴に抱かれることになる。繰り返される快楽の渦の中、処女だったはずの充姫は兄の獅朗のすぐ側で良いように陵辱されてしまうのだった。

「お断りします。私はお兄様のような素晴らしい方でなければ嫌です。申し訳ありませんが、どなたともお付き合いする気はありません」

 藤井充姫は、同級生の――名乗ったが名前すら覚えていない――男の告白を一刀両断に切り捨てると、踵を返して屋上出口のドアノブに手を掛けた。

「おい、ちょっと待てよ」

 充姫の背に、諦めきれない男の声が投げつけられる。
 しかし、彼女は一切振り返ることなく、颯爽とその場を後にするのだった。
 階段を降り、自分の教室までの帰り道、苛立ちからか自然と足早になってしまう。

(わざわざ屋上まで出向いて差し上げたのだから、それだけでも感謝して欲しいぐらいですわ)

 充姫は、我ながら度しがたいと思うが、それはどうしようもなかった。
 なぜなら彼女には心に決めた人がいたからだ。
 それは、藤井獅朗、彼女の十歳上の兄である。
 彼女にとっては兄以外の男は微生物にも劣る存在だった。
 だが、血を分けた実の兄と結ばれることなどない。
 その事実は充姫自身分かってはいたが、それでも愛する気持ちを抑えられずにいた。
 だから、こうして告白などをされると、いっそうその気持ちが強くなってしまう。

(獅朗兄様を越える男の人などいるはずもない)

 ギリっと奥歯を噛みしめながら、充姫は廊下を進んでいく。
 教室が近づいてきたところで、一度深呼吸をして、顔の強ばりをとった。
 そして、何事もなかったかのように教室に入った瞬間、軽薄そうな声が彼女を迎えた。

「また撃墜してきたのかい? お・ひ・め・さ・ま」

 皮肉っぽく充姫に声を掛けてきたのは、幼馴染みの城島真沙貴だった。
 幼馴染みと言っても、決して仲が良いわけではない。
 むしろ相性は最悪だった。

「ええ、小さい頃の貴方と同じように、完膚なきまでに振ってあげましたわよ」
「……ちっ、それだけは俺の黒歴史だな。へっへっへっ、子供の頃は目が腐ってたんだろうよ、お前みたいなイカレている奴に告白するなんてな」
「成長の機会を差し上げたのだから感謝してくれても良いわよ?」
「ああ、あ・り・が・と・うよ。それはそうと、お前んとこの使用人からの預かりもんだ」

 一瞬不快そうな表情を浮かべたものの、慣れたものという感じで真沙貴は嘲るような表情に戻る。
 それから、充姫に向かって封筒を投げつけてきた。

「ん? 何よ」

 封筒の中には一枚の便せんが入っており、充姫はすぐにそれを開いた。

「『すぐ屋敷に戻られたし。伊武』って、何なのよこれ?」

 便せんには使用人の伊武からの簡潔なメッセージが書かれていた。
 しかも、いつも丁寧な字を書く伊武の字とは思えないほど乱雑な文字だった。

(家で何かあったわね……。でも、一体何が?)

 いつも冷静な伊武がこれほど慌てているのだ、緊急な出来事が家で起こったのは間違いない。
 だが、充姫にはまったく心当たりがなかった。
 便せんを持ったまま、彼女が考え込む素振りを見せた瞬間、再び皮肉っぽい声が掛けられた。

「とっとと戻った方が良いんじゃねえのかな? 愚か者の考えは休むに似たりって言うぜ」

 キッと真沙貴を睨み付ける充姫だったが、確かにその通りだった。

「癪だけど、貴方の言う通りね。じゃあ、帰るから、担任に言っておいて頂戴」
「おう、頼まれてやるよ。これには礼はいらねえよ。俺も担任に用があったからな。それに――」
「――もう貴方とお話ししてる暇はないから、帰るわね」

 充姫は真沙貴の言葉を遮ると一目散に教室を出て行ってしまった。
 その後ろ姿を見送りながら、彼はいやらしそうに口角を吊り上げながら独りごちるのだった。

「くっくっく、どうせ、すぐに俺の所に来ることになるんだけどな」

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