乙女は兄のために処女を捧げる (Page 3)

「じゃあ、行ってくるわね」
「行ってらっしゃいませ」

 伊武に見送られ、充姫はまるで戦地に赴く兵のような気持ちで真沙貴の家へと向かった。

「ここに来るのも、久しぶりね……」

 城島家はこの地の名士として非常に長い歴史を誇る一族であり、現当主の真沙貴の父親は国会議員として、辣腕を振るっていた。
 その権勢にふさわしい、塀に囲まれた広々とした日本家屋が充姫の前に鎮座していた。
 幼児の頃に何度か父親に連れられてきたことがあったが、成長してからは本当に久しぶりだった。
 門のところで警備員に名前を告げるとあっさりと通された。

(それにしてもこんなに物々しかったかしら?)

 充姫が疑念を持つほどに各所に警備員が置かれ、まるでネズミの子一匹も通さないと思われるくらいの厳重な警戒態勢だった。
 真沙貴は奥の離れにいるということで、そちらに案内される。
 うっそうと茂る林の中、どこか山寺のような雰囲気を持った建物だった。

「おう、充姫やっときたな」
「貴方がこんな奥まったところにいるからでしょ……」
「はっ、それもそうか。で、何の用だっけ?」

 とぼける真沙貴を噛み付くような視線で睨み付ける充姫。
 とても冗談が通じるような空気ではないのだが、彼はまったく怯まなかった。
 それどころか、余裕たっぷりで煙草に火をつける。

「高校生のくせに何をやってるのよ……。それよりも獅朗兄様のことを――」
「――まあ、そう焦るなって。大体お前は何ができるって言うんだ?」

 美味しそうに煙草の煙を吐き出す真沙貴に、充姫は焦ったように近づいていく。

「土下座でもすればいいのかしら?」
「はぁ……、お前さんさ、さすがにそれで大事を動かすってマジで行ってるのか?」

 まどろっこしい言い回しをする真沙貴が何を言いたいのか、充姫は未だ理解できていなかった。
 それを見て取ったのだろう、真沙貴は下卑た笑みを隠すこともせずに充姫の頬に手を伸ばした。

「俺も鬼ではないからなあ……。お前の兄思いの気持ちに打たれて、親父に話を通してやってもいいんだけど。……ただ、そのためには魚心あれば水心っていうじゃねえか」

 ああ、と真沙貴の煙草臭い息を浴びながら、充姫はようやく気付いた。
 彼が何を欲しているのか。
 そして、そうしなければどうしようもないことに。

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