隘路 (Page 2)

 そんなふうに香史郎が自分の内面とだけと向き合っているうちに、彼女は立ち上がって路地の奥へと歩き去ってしまう。
 ちらりと目をやって香史郎は彼女の背を見送り、それから動かない男の背中へ視線を落とす。
 
 安物のスーツの背は動かない。呼吸していないのだ。きっと死んでいる。
 男の死に顔が気になった香史郎は爪先で男の肩を蹴り、仰向けにしようとするが上手くいかない。ぐらぐらと不安定に揺れるが、男の体は頑なに地面に伏せていた。

「何してるの?」
 ごー、と低い音を伴って立ち去ったと思っていた彼女が舞い戻ってきて香史郎に問う。彼女は大ぶりなスーツケースを引っ張っていた。引き連れていた低い音の正体は、それのキャスターの音だったらしい。

「どんな顔してるのかなと思って」
 返答に彼女は面食らった顔をしたが、すぐにそれを消した。
「手伝って」
「いいよ」
 何を、とは訊かずに香史郎は頷いた。

 スーツケースを開き、彼女は黙って中身を次々と香史郎に手渡す。大人しく大小様々な荷物を受け取る。そして、空っぽになったスーツケースに苦労して彼女は男の体を押し込む。手足を折り曲げ、窮屈な姿勢で男はスーツケースの中に納まった。

「いい場所がある」
 香史郎はそう言って顎をしゃくった。
「人は滅多に来ないし、穴を掘ったりする道具もある」

「案内して」
 二人は揃って歩き出した。
 歩調は自然と揃っている。
 スーツケースごと男を埋めて、土を踏み固めている時に香史郎は、彼女の名前を訊ねてみた。
 カリン、という答えが返って来た。
 カリン、それが彼女の名前。どんな漢字があてられるのか、平仮名のままなのかは訊ねなかった。
 だが、カタカナが一番それらしいとだけ香史郎は今も思っている。

*****

 カリンと出会ってから、数か月が経過した。
 その頃になると香史郎の生活にひとつのルーティンが出来上がっていた。
 起床し、学校へ行き、学校が終わると町外れの名前も知らない山へ行く。

 その山は香史郎が小学生の頃から遊び場にしていた。一人っきりで過ごせる秘密基地を作り、誰とも会わず、何も考えない時間を過ごすための場所。

 その場所に今はカリンがいる。

 香史郎が時間をかけて作った小屋でカリンは生活していた。
 気に向いた時にしか足を向けなかった秘密基地は、カリンが住むようになってからアップデートを繰り返し、それなりの住空間になっている。

 盛夏も過ぎ、山には秋の気配が街よりも早く漂っていた。

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