隘路 (Page 6)

 香史郎はカリンの言葉と同じ程度に軽い調子で返事をする。
 二人の視線が洗濯機の表面に反射し、その虚像を通して絡む。
 香史郎の顔には一欠けらの同情もない。
 カリンの目には悲しみの色はない。

 洗濯機の駆動音だけが規則正しく降り積もっていく。
「……別にカリンは、どこに行ってもいいんじゃない? 死体が見つかったら困るのはこっちだから」
「……そう」
 微かな間があってカリンが返事をする。
 不意に香史郎の手にカリンが触れた。
 暖かい。彼女の体温がじんわりと香史郎にも伝わる。

「いいこと、してあげようか」
「……」
 香史郎とカリンは相変わらずお互いへ顔を向けない。虚像越しに腹を探り合うような視線のやり取りをしている。

「いいことって、なに?」
「どうやってお金稼いでると思ってたの?」
「考えたこともなかった」
「お坊ちゃんめ」
 カリンは鼻で笑って香史郎の手を握った。そして、パイプ椅子から立ち上がり、彼の前に回り込む。さらにぐっと顔を近づける。鼻が触れ合うぐらいの近さで真正面から二人の視線がぶつかった。

 吐息を交換していると不意にカリンが目を閉じる。
 さらに顔が急接近し、唇が触れ合う。
「ん、……んぅ、はふぅ」
 なすがままにされている香史郎と舌を絡ませ、カリンが口の端から甘い声を零す。
 口腔内を他人の舌が動き回る感触は未知のもので、香史郎はむず痒さを堪えていた。

「どお?」
 唾液の糸を引き、カリンが口を離す。唇をひと舐めし、彼女はどこか得意げに問う。
「くすぐったかったかな」
「それだけ?」
「あとは、……息が少し苦しかった」
「あれ? 結構評判良いんだけどな」
「そうなんだ。これで終わり?」
「終わりにしてもいいんだけどね」

 どういうわけか苦笑してカリンは香史郎の前に座り込んだ。パイプ椅子に座っている彼の胸辺りにカリンの顔が来る。

 すりすりとカリンは香史郎の内股を掌で撫でた。その感触は自分で触れるのとは全く感触が違う。くすぐったさがあるが、それ以上にぞくぞくと背中の真ん中辺りを快感が走る。
 香史郎のズボンの前をカリンは開け、下着をずり下げる。微かに太くなっている彼の性器を見て、カリンが目を細くして笑う。

「んぷっ、はぁっ」

 躊躇いなくカリンは香史郎の男根を口に含んだ。唾液でぬめり、しかしながら体温で暖かい。ざらついた舌で鈴口、雁首、裏筋をなぞられ、殆ど間を置かずに香史郎のものは固くなってしまう。
 香史郎とて年頃の男だ。自分のものを手で扱いて自慰をしたことぐらいはある。
 だが、そんなものとは比べ物にならない刺激が射精をしろと迫ってくるのだ。理性など簡単に押し流されて、本能のままに香史郎は射精した。

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