隘路 (Page 5)
ちらりと横目で見たカリンの頬は微かに紅潮し、彼女の体温が高くなっていることが分かる。それにパサついていた髪はしっとりと艶を取り戻し、彼女の肩の上で揺れていた。
シャープな顎から首筋にかけてのラインは、ここ数か月の生活で痩せたからだろうか。
「なに? じっと見て」
「……長風呂だったのかと思って」
「ああ、そういうこと。……そうだよ。コーシロウが来るちょっと前まで入ってた」
「一時間以上入ってたってこと? のぼせない?」
「ちゃんと涼んだから」
「へぇ」
「あそこ」
カリンが示した先にはコインランドリーがあった。コンビニなどで見慣れた真っ白い灯りではなく、どことなく頼りない青白い明かりが零れている。
テント看板の文字はすっかり退色して輪郭だけが残っていた。その下にある扉は模様の入ったガラスサッシで、カラカラと音を立て開いた。
中には大型の洗濯機が五つ並んでおり、家庭用のものと違って硬貨の投入口がある。
小さなそのコインランドリーは誰が管理しているのか不明だが、内部はきれいに掃除されており、備え付けの洗剤まであった。
「何回か使ってるんだけど、人が来ないからゆっくりできるんだ」
端の洗濯機に衣類を放り込み、カリンが背中越しに香史郎に言う。
香史郎はその背中に近づき、硬貨の投入口へ五百円玉を投入する。
「ありがと」
備え付きの粉洗剤を目分量で入れながらカリンが言い、それから洗濯機の扉を閉めた。
スタートボタンが押され、洗濯機の中で洗濯物が回転を始める。
「どこで待てばいいの?」
香史郎がそんなことを訊ねると、カリンは吹き出す。
「そこ。そこの椅子にでも座って大人しくしてればいいんだよ。乾燥もしてくれるしね」
カリンは二つしかないパイプ椅子に先に腰かけ、その座面をぽんぽんと手で叩いた。
「ほら、コーシロウも座りなよ」
大人しく香史郎はカリンの隣に腰を下ろす。
ごうんごうんと規則正しい稼働音がコインランドリーの中に響く。その低く規則的な音は電車に乗っている時のように眠気を誘う。ただし、電車の中と違って空調の類はないので風邪をひいてしまいそうだが。
「カリンにずっと訊きたかったことあるんだけど、いい?」
「なに?」
「どうして、ここにいるの?」
「共犯者は近くで見張ってるに限るから」
「カリンは何もしてないのに共犯者なの?」
「一緒に埋めた仲でしょ、死体」
「それって犯罪なの?」
「確かそうじゃなかった? 死体なんとか罪とか」
「え、情報がなんにもないけど」
「死体とか勝手に動かしたり捨てたらダメとか、そんな感じだったと思うよ」
お母さんそれで捕まったし、とカリンは軽い調子で続けた。
「ふぅん」
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