隘路 (Page 9)

「カリン、出したい。出したい」
「……」
 数舜の迷い。

 だが、カリンはそれを香史郎に許すことにした。

「いいよ、出して」
 抱き寄せ、カリンは香史郎の耳元に囁いた。
「カリン」
 囁きで耳元をくすぐられ、香史郎は達する。力が入った肉棒がぐぅっと角度を鋭くし、膨張した雁首を子宮口に押し付けた。その一瞬後にカリンは自分の体内に放たれる精液の熱を感じる。
「あ……、い、く」
 中から突き上げられ、外側は香史郎に強く抱きしめられてカリンは快感の大波に意識を攫われた。天井を向いていた視界の中で白い星がちらちらと舞い、背骨が凍るような、内臓から痺れるような強烈な法悦を味わう。

「う、ぐっ」
 女性の体内での初めての射精を終え、香史郎は呻きながら性器を引き抜く。射精直後の敏感な性器が精子を一滴たりとも逃さぬと蠢く膣肉にいじめられているのだ。

 パイプ椅子の背にぐったりと体を預けたカリンは、ぜいぜいと荒い息を吐いている。それでも彼が体の上からどいたことを契機に、のろのろと服を身に着けるのだった。

 行為が終わったのを見計らったように電子音がして洗濯機が停止する。

 二人揃ってふわふわした心地と足取りで洗濯物を回収し、コインランドリーを出た。夜道を歩いている頃には、普段と同じ表情に戻っている。

 商店街の切れ目まで歩いて、そこで揃って足が止まった。

 どちらも黙ったまま足を止めている。

「思ったんだけど」
 口火を切ったのは香史郎だった。

「なに?」
「共犯者の話があったでしょ?」
「うん」
「監視していないといけないのは、僕の方だよね。僕が殺したんだ」
「あたしを助けるためだった、とか色々言い訳はできるでしょ」

「信用できない」
「なにそれ」
「だから、カリの近くにもう少しいて、監視することにする」
 二人は暗い道の先を見据えたまま、お互いのことを顧みることもなく会話を続ける。

「もう少ししたら受験で、僕はここから離れた大学に行く」
「うん」
「一人暮らしをする予定だから、君を連れ込もうと思ってるんだ。近くにいて貰わないと。監視し難いし」
「荷物が増えるだけだよ」
「もう決めてた。そのために志望大学も変えたから、断られても困る」
「なにそれ」

 細い月が浮かぶ夜空を仰いで、カリンは笑う。
 香史郎は前を向いたままだ。

「僕は自分勝手だから。できるだけ長く付き合ってもらうよ、共犯者」
「そうだね、共犯者だもんね」
 前を向いたままの香史郎へカリンが視線を向ける。
「どこまで行こうか」
 その問いに香史郎は、やはり前を見たままで応えた。
「どこまでも」

 しばしの沈黙の後、香史郎とカリンは肩を並べて歩き出した。
 月の光も星の明かりも届かない暗く狭い道へ。

(了)

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