あの日に帰れるのなら (Page 2)

次の日、ソワソワしながらグランドへ向かった。ついついフェンスの向こうが気になって、練習には身が入らなかった。

つばめが現れたのは、陽が落ちる直前だった。

野球部の練習を見にきている子は他にもいたけれど、すぐに気がついた。つばめも俺のことを見つけたようで、目があった。こっそり手を振ると、つばめも下の方で小さく手を振ってくれた。

その日、つばめは最後まで練習を見てくれていた。フェンスの側に落ちている球を拾うふりをして、彼女に駆け寄る。

「帰り、送ってく。だからもうちょっと待っててもらってもいい?」

「そんな、悪いよ。気遣わなくていいよ」

「気を遣ってるんじゃないよ。俺がそうしたいんだ」

つばめの肩に届かないくらいの黒髪が揺れる。目があったつばめは目を丸くして、何度か瞬きをしていた。

つばめのことが好きだ。昨日会ったばかりだけれど、好きなものは好きだ。つばめにも知ってほしい。俺がつばめを好きだってこと。そして、意識してほしい。つばめにもドキドキしてほしい。

「じゃあ……校門の前で、待ってるね」

つばめは少し俯いて、フェンスに指をかけながら言った。同じところに俺も指をかける。ほんの少し、指先が触れ合う。つばめは驚いたように顔を上げて、視線が絡んだ。

つばめと付き合うようになるまで時間はかからなかった。何度かこうして一緒に帰って、昼休みもたまに一緒に過ごして、俺から告白するとつばめは嬉しそうに俺を受け入れてくれた。

 

最後の夏、俺は地区大会の最初の試合で足首の骨を折った。ホームで相手チームの捕手と交錯して起こった負傷だった。チームは勝ち進んだ、俺の夏はあっけなく終わった。

松葉杖じゃどこへも出かけられないし、最後の夏がこんな形で終わってしまい、自宅で腐っていたところへつばめがやってきた。

「体調、どう?」

「足以外はぜんぜん元気だよ。体力有り余ってるくらい」

「そっかー……」

つばめは気を遣っているのか、それ以降怪我のことも部活のことにも触れてこなかった。つばめのクラスのことだとか、今度行きたい店のことだとか、取り留めもない話をした。

話が一段落ついたところで、ベッドを背もたれに座っているつばめに、テーブルの上の飲み物を取ってくれるよう頼んだ。

つばめは膝を立て、四つん這いのような体勢になって身を乗り出し、テーブルの上のコップを取ろうとした。

つばめの制服のスカートの丈は、他の同級生の女子と比較してもそんなに短くはなかった。しかしその体勢のせいで、太もものつけねのあたりまで俺の目に飛び込んできた。陽の当たらないそこは、目が眩みそうなほどに白かった。

そんな視線には気づいていないつばめがコップを手渡してくれたので、受け取る。

つばめと俺はキスは何度かしたことがあったけれど、それより先にはまだ進んでいなかった。

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