ある事務職の甘い風景 (Page 3)
「んふふ、やっぱり覚えてないんですねえ。まあ、いーです」
彼女はそう言うと目を伏せ、少し寂しげに微笑んだ。
「あーあ、頑張ったんだけどなあ」
身体を離して椅子の上で伸びをする彼女は、少し悲しげな顔でちらりと俺を見る。
その頬は少し赤らんでいて、俺の中の楽観的で都合の良い考えを膨らませてくれた。
記念日を祝って欲しがっている?
彼女も、俺に好意を寄せている?
キスまでして、俺を誘った?
俺は目の前のノートパソコンをパタリと閉じた。
そして彼女に向き直り、その肩を掴んで正面を向けさせる。
この気持ちが愛情なのか、劣情なのか分からない。
でも、俺は彼女が欲しい。以前から。
俺は自分を正当化させると、彼女の頬に手を添えて顔を寄せた。
彼女は逃げる素振りも見せず、そっと目を閉じる。
わずかに開いた薄桃色の唇に触れ、こじ開けるようにして舌を捩じ込むと、彼女の舌が歓迎するように受け入れてくれた。
「ん、んんふ、んん!」
鼻にかかった牝の声に、安いオフィスチェアが軋む音が重なる。
ぴちゃ、ぴちゅ、じゅるる……。
俺はわざと音をさせて彼女の甘い体液を吸い、舌で歯や舌の裏、頬の裏などを舐めまわした。
すぐ目の前で揺れる長い睫毛の陰で、潤んだ瞳が俺の獣のような目だけを映している。
そっと唇を離すと、彼女の唇と俺の口を結ぶ銀の橋が伸びて消えた。
彼女は虚ろな目で俺を見つめ、少し開いた唇の奥でピンク色の舌が物欲しげに蠢いている。
俺はもう一度彼女の唇に触れるだけのキスをして、立ち上がった。
「仁美、立って。キスだけじゃ終われない」
「ん……」
仁美は俺の手を取り、蕩けた笑みを浮かべて素直に立ち上がる。
誰もいないフロアに、彼女の吐息と俺の心臓の音だけが響き渡っているようだ。
「一年間、ありがとう。君がここにいてくれて、良かった」
「あなたがいたから、頑張れました」
「これからも、ずっと俺のそばにいて欲しい」
「……はい、喜んで」
うっとりとした笑みを浮かべて答えた仁美をぎゅっと抱きしめ、もう一度キスをする。
そして、ブラウスとスカートの上から彼女の身体の柔らかさを確かめるように両手を這わせる。
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