ある商人の買い付け (Page 2)

「どうでしょうかね」

 藤吉は頑としてその封筒に触れない。

 しばらく借金取りは目を細めていたが、ついっと封筒を引っ込めてまた懐に収めた。

「頑固だね、あんた」

「商売人はね、降って湧いたようなもんには手を付けんです。祖父さんからもそう教わりましたしね」

「へっ、それで他人の借金を払ってりゃ世話ねえよ」

 苦笑し、借金取りは去っていった。

 借金取りが立ち去ってからも藤吉は店をいつも通りに営業し、時間になれば閉店する。そして、帳簿をしっかりとつけて、店の奥にある自宅へと引き上げた。

 藤吉の住まいは二階建てで一階の一部を商店と倉庫、その他を水回りなどの生活空間として使える。二階の半分は彼の寝床過去の帳簿や様々な商売の細々としたものを保管してあった。

 彼は台所で食事を作り、二組の食器に盛り付けてお盆に乗せる。そして、お盆を持ち、慎重な足取りで歩いて納戸の扉をそっと開けた。そこには主だけな箪笥が一棹あり、奥行きは幾ばくも無い。

 手に持っていたお盆を床に置き、藤吉は箪笥についている鉄の把手を引いた。引き出しがの中には古い着物が詰まっている。同様に幾つかの引き出しを開け、最後に一番下の引き出しを力を込めて引く。

 すると、かちんと音がして箪笥の前の床に微かな隙間が現れる。

 藤吉は箪笥をそっと押す。さほどを力を入れずとも箪笥はするすると後退し、今まで箪笥があった場所には地下へと続く階段がぽっかりと口を開けた。

 彼は再びお盆を取り上げ、階段を下りていく。自分の頭が隠れる辺りまで降下した頃合いで、藤吉は今までは床であった部分を横滑りさせて、すっかり塞いでしまう。

 納戸の外からは箪笥があるだけにしか見えないだろう。

 藤吉は真っ暗闇の中を慣れた足取りで歩き、階段を降りたところで壁に手をついた。そこには窪みがあり、カンテラと燐寸が置いてある。小器用に片手で燐寸を擦り、カンテラに火を灯す。

 闇を押し広げるように灯火がその場を照らす。

 木と石で堅固に形作られた地下通路だ。

 殆ど足音もなく、彼は地下通路進んでいく。

「やあ、ご機嫌はいかがですか」

 地下通路のどん詰まりには、木の格子が巡らされていた。カンテラの火によって全体を照らすことはできないが、それは座敷牢である。

 そして、灯火を投げかけられた格子の奥には、一人の人間が蹲っている。男物の着物を着ているが、その青白い顔は確かに女のものであった。

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