足止めの駅で (Page 2)
菜月の悪癖。
それは、会ったばかりの男と躊躇いなく一度限りのセックスをすることだった。
一晩限りの関係を持った男の数は、100を超えた頃から数えなくなっていた。
初めてセックスを覚えた時から今まで、菜月は誘われたら断らずに全ての男とセックスしてきた。
大学の同級生もサークルの先輩も、バイト先の後輩も全部断らなかった。
街でナンパされた男とも、旅先でふと隣り合わせた男ともその日のうちにセックスをした。
そして恋人らしい存在がいる時でも、それを止めなかった。
大学を卒業して、社会人になって、忙しさのためにその癖がなりを潜める期間は増えたが、菜月の根本が変わった訳ではない。
だから20代半ばを過ぎても菜月はまだ同じことを繰り返している。
ここ数年は、菜月は専らマッチングアプリを使っている。
マッチングアプリの中は、その日のうちにセックスしたくてたまらない男たちで溢れているからだ。
女の立場で見ると、よほど相手を選ぶのでなければその日限りの関係が持てる男を探すのに困ることはまずない。
近くの男に見境なく「いいね」を送れば、片っ端からマッチングが成立する。
相手のプロフィール確認と2〜3通のメッセージのやり取りで、膨大な数のマッチした男たちから適当に絞り込むのに、実際15分もかからない。
今回は旅先なので東京でやる時ほどの入れ食いではないものの、それでもプロフィールに「○○駅で足止め中。今夜一緒に過ごしてくれる人探してます」と入れて近隣の男にいつものように見境なく「いいね」を送れば、あっという間にマッチは40件を超えた。
「今近くにいる相手」を探すことができるこのアプリはその簡易性でいわゆる「ヤリモク」の出会いを探す男女に人気だ。
念入りにやりとりをしてから会い、あわよくば交際しようという目的を、菜月ははなから持っていない。
だからこの手軽なアプリの使用頻度がどうしても高くなるのだった。
マッチングした40人のうち、ひとまず1人目のターゲットとして自分の居場所をメッセージで知らせたのが康介だった。
第一候補と会ってみて生理的に不快な感じだったら一旦逃げて、また次の候補に連絡、と頭の中で段取りしていた菜月だったが、1人目の康介がかなり好感が持てる雰囲気だったのでその場で他を全部切った。
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