エレベーターが止まったら (Page 2)
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このワンルームのアパートは、駅からの距離がある代わりに築浅で小綺麗なところが売りだ。
7階建てのエレベーター付きで家賃は相場程度、2人が勤める会社からは1駅の場所にあるので、運動がてら歩いて通勤することもギリギリ可能なので隆太は決めた。
隆太は正社員ではあるもののまだ3年目の若手であり、もろもろ引かれて手取り給与は少ないのが現状だ。
手取りだけで言えばおそらく派遣のひかりとそう変わらないため、求める物件の条件は似通ってくる。
だから同じアパートに住んでいると知った時は驚いたが、それは経済的な意味ではない。
社内の誰かに、このことを話したことはない。
男性人気の高いひかりと同じアパートに住んでいると1人にでも漏らせば、社内中にあっという間に広まるだろうことは予測できたし、そうなればやっかみ混じりの妙な噂が立つのは時間の問題だからだ。
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「こんな時間まで残業ですか?」
密室に2人きりで緊張している隆太に、ひかりの方から話しかけた。
「あ、はい…」
「社員さんは大変ですよねぇ」
気まずさがあるだろうに、職場と同じように朗らかに話してくれるひかりに、改めて隆太は好感を持った。
「いや、僕の要領が悪いだけで、」
苦笑いで隆太が答えたその瞬間、ガタンっと大きな音がしてエレベーターがひとつ揺れた。
「えっ…」
そして、エレベーターは3階と4階の間で止まってしまった。
「とま…っ、た?」
驚いて、ひかりの声は震えていた。
「大丈夫ですか?」
隆太も動揺しており、この一言が出るのがやっとだ。
「大丈夫…え、大丈夫なのこれ?」
「あ、非常ボタン押します」
少し落ち着きを取り戻した隆太が言って、非常ボタンを押した。
「はい、警備です。どうなさいましたか?」
ボタンを押すと、通話がつながり警備担当者の声がきこえた。
「エレベーターが止まっちゃって」
「それでは住所確認いたしますね、そちらは…」
良い意味でも悪い意味でも、そして性的な意味でも、エレベーターが停止してしまうという状況を空想したことは誰でもあるだろう。
隆太ももちろん何度か妄想したことはあった。
正直に言えば、女性と2人きりで、エッチな展開に…なんてAVを見たこともある。
しかし現実に起きてみると、まず不安や恐怖の方が大きいものなんだなと隆太は感じていた。
「はい、作業員がそちら到着するまで10分程度ですね、申し訳ございませんが少々お待ちください」
「わかりました、お願いします」
どうやら復旧までそう時間がかからないことがわかって、ふつっと通話が切れた。
「ありがとうございます」
安心した声でひかりが言うと、隆太も笑顔でひかりに答えた。
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