エレベーターが止まったら (Page 5)

「っあ…」

エレベーターは4階に停止し、ドアが開くとそこには作業着姿の男が立っていた。

「大変お待たせしました」

男は2人をエレベーターの外に促し、状況確認の質問を2つ3つした後、一礼して続けた。

「おそらく重大な故障ではないと思われますが、この後点検作業に入ります。恐れ入りますが階段をご利用いただいてよろしいですか?」

「わかりました」

「ありがとうございました」

2人は各々作業員に挨拶をして、エレベーターの脇にある普段ほとんど利用することのない階段に向かった。

「4階まで来てて良かったですね、ふぅ」

階段を登りながら、ひかりが話しかけた。

「本当、2階とかからだったらしんどかったですね」

隆太は笑って答えたが、先ほどまでエレベーター内で起きていた事態がなかったかのようなさっぱりしたひかりの振る舞いに落胆した。
エレベーターがあと数十分止まっていたらどこまでいけたんだろう、せめて数分あればキスはできてたっぽいよなあ…と惜しむうちに6階に着いた。

「大久保さん、これありがとうございました」

6階に住むひかりが、言いながら隆太のコートを手渡してきた。

「あ、いえ…」

先ほどの興奮が残りながらも身体が冷え始めていた隆太は、残念に思いながらもあれは夢だと思って諦めるしかないと自分に言い聞かせた。

「あの、もし良かったら…」

しかしひかりは、隆太にコートを渡しながらもう片方の手をそっと握ってきた。

「うちに寄って行きません?暖房も付けたままだし、大久保さんのお家よりあたたかいと思います…」

「え…それって」

諦めかけた願望が、さっきの続きが待っているのかと隆太は期待した。

「コート貸してくださったお礼、させてください」

上目遣いに微笑むひかりの目はいたずらっぽく光っている。
そういう期待を隆太が抱いているのは気づかれているはずで、その上で言っているのだからひかりは間違いなく「誘って」いるのだろうと思った。

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