エレベーターが止まったら (Page 4)

「災難でしたね、こんな…」

「はい、でも1人だったらもっとパニくってたかもしれません…寒いし、絶望的だったかも…」

「そうですか…僕も1人だったらもっとビビってたでしょうね…」

「そうなんですか?大久保さんはお若いのにいつも落ち着いているように見えますけど」

「いやぁ、会社では気を張ってるだけですよ」

「ふふふ、そうなんですね、意外です」

ひかりの笑い声に気持ちがほぐれて、前を向いていた隆太はふと彼女の方を振り返った。

「…こうしてお会いしたことはなかったですよね」

こちらを上目遣いに見てくる小柄な彼女の顔を見下ろすと、どうしても視界に胸元が入る。
パーカーの閉じ切っていないファスナーから深い谷間がのぞいているのを見ると、隆太は下半身に血が集まっていくのをしっかり感じた。

「そうですね…増田さんは社内の人気がすごいから、同じところに住んでるなんて知られたら、嫉妬がすごいだろうな」

「そんなことないでしょう…でも」

言いながらひかりはずいっと一歩、隆太の方に近づいてきた。
狭いエレベーターの中で一歩分近づくというのは、隆太にとってはほとんど密着に近い感覚だった。

「大久保さんにそう思われてるなら…嬉しいです」

ひかりはそう言うと、隆太の顔をじっと見たまま隆太の手を取った。

「え…」

「寒い、ですね…くっついてた方が、寒くないかも…」

ここまで女性に言われて動けないなら男じゃないだろう、と隆太は思った。

「そうですね」

隆太の声は緊張で震えていたが、思い切ってひかりを抱きしめた。
ひかりは何も言わず、そっと自分の腕を隆太の腰に回して抱き返してくれた。

非常事態で感覚が麻痺しているのかもしれないが、それでも少なくとも今この瞬間、ひかりは隆太を許し、誘っていると感じられる。

ひかりの大きな乳房が、隆太の腹に当たっている。
その感触はふわふわと柔らかく、隆太は自分のペニスが硬く勃起してしまっていると気づいたが、密着してそのことがひかりに知られてしまっても構わないと思って一際強く彼女を抱きしめた。

ひかりが俯いていた顔を上げて隆太と目を合わせた。
隆太がその潤んだ瞳に吸い寄せられるように口づけをしようとしたその瞬間

「大丈夫ですか?」

警備担当者との通話がつながった。

「あ、は…はいっ」

隆太は慌てて返答し、ひかりと身体を離した。

「作業員がそちらに到着いたしました、間もなくエレベーター動きますのでよろしくお願いいたします」

「わかりました、ありがとうございます」

通話が途切れ、少しの沈黙の後エレベーターが動き出した。

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