春三月・桜の下で少年は…… (Page 5)
それから2週間後。
「先日の模擬試験の結果を返す! 各自、よく見直して、志望校合格の対策を考えること!!」
和真の順番が回ってきた。
「おう、坂下! 今回はよく頑張った!!」
男性教師のたくましい手でクシャクシャと頭を撫でられる。
「これからもこの調子で頑張れよ!」
結果はB判定。前回がD判定だったので、かなりの向上である。しかし、これは掘北学園の合格判定。そして彼は第二志望に西城科学技術学院と記入していた。理系と文系では教科ごとの特典加重が違うので……
『A判定』
彼は心の中でガッツポーズをした。
(これで母さんに本音をぶつけられる!)
和真はテストの結果を握りしめて帰宅した。
「あらァ、和真ちゃん! B判定だなんて頑張ったじゃない? 今度はA判定を目指しましょうね!」
節子は満面の笑みで言った。
「いや、母さん、見てほしいのはそこじゃないんだ……」
そう言いながら、西城科学技術学院の合格判定を指さした。
「? アラッ! 和真ちゃん! 何この『西城科学技術学院』って? この学校から公務員にはなれないじゃないの?!」
和真はテーブルをバンッ! と叩き、勢いよく立ち上がった。
「母さん! 僕は公務員になりたいわけじゃないんだ! 将来はITエンジニアになりたいんだッ!!」
節子の目がキッとつり上がった。
「和真ちゃん! 急に何言い出すの? あなたは子供の頃から公務員になりたいって言ってたじゃないの! あなたのいとこ、みんな公務員になってるじゃないの!!」
「公務員になったのは、和人兄ちゃんと真也兄ちゃんだけじゃないかッ! あとはみんな民間だよ? それに、ほとんどがエンジニアじゃない!!」
「で、でもあなたは公務員になりたいって!……」
「それは、和人兄ちゃんがスポーツカーを乗ってて格好いいって言っただけだよ! 別に公務員だから格好いいとか言ったわけじゃないよ!!」
「和真ちゃん! あなた、公務員が一番安定してるのよ?」
「これからの時代は公務員もどうなるかわからないよ!」
「あ、わかった! 女……女ね? あなた、誰か好きな女がいるのね? きっとその女があなたをたぶらかしたに違いないわ! 誰? その女はッ!!」
「違う! 違う! 違う! そんなんじゃないよ!! 母さんの分らず屋!!」
「和真ちゃん? あなた気が触れたの? ああ、あたしのかわいい和真ちゃんが!!……」
節子はオイオイと泣きながら、その場に崩れてしまった。和真はそんな節子を放って、自分の部屋へ行ったのだった――
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