一目惚れの終末

・作

ありふれた出会いだけれど、わたしにとっては運命だった―――。蘭子と千紗は、同性と付き合うのはお互いが初めてだった。女同士のセックスの方法を調べ、道具を手に入れ、彼女たちは初めてのセックスに臨む。「女の子の中って、こんな感じなんだ……」二人のセックスは上手く行くのか、そして二人の恋の結末は―――。

ありふれた出会いだけれど、わたしにとっては運命だった。
蘭子と出会ったのは、雑居ビルの中の薄汚れた共用トイレだった。よくわからない液体やゴミでニチャニチャしている床に、ドレス姿の蘭子は俯いて屈み込んでいた。

「だ、大丈夫ですか……?」

思わず声をかけてしまった。ゆっくりと彼女の頭が持ち上げられる。耳にかけていた髪がはらりと一筋落ちて、彼女はゆっくりと瞼を開いた。
こんなゴミ捨て場のような場所にはそぐわない、恐ろしく美しい女だった。通った鼻筋、切れ長なアーモンドアイ、なめらかな輪郭。すべてのパーツが整っている。
相当酔っ払っている様子で、虚ろな瞳に自分の姿が映し出されているのが見える。
彼女と目が合っていることに気付くと、急に鼓動が速くなってきた。
抱えている膝から血が出ていたのでハンカチを差し出すと、彼女は素直に受け取ったので、もう一度、大丈夫ですか、と尋ねた。

「大丈夫……」

「すごく、酔ってますよね?」

「うん……」

ふと思い立ち、トイレを出てビルの一階に入っているコンビニへ向かった。そこでペットボトルの水を買ってトイレに戻ると、彼女はわたしが出ていったときと同じ体勢のまま、そこにいた。

「お水、買ってきたので、飲んでください」

どうして自分が見ず知らずの他人にそこまでしているのか、そのときはわからなかった。

けれど今ならわかる。

わたしは、初めて蘭子と目が合ったあの瞬間、恋に落ちたのだ。だから、水をわざわざ買ってきて手渡したのは、純粋な下心だった。

水を受け取った蘭子は、何かお礼をさせてください、と言って連絡先の交換を求めてきた。お礼なんていいですよと口先では言いながらも彼女の連絡先を手に入れた。

彼女から連絡がきたのは、翌日の夕方だった。昨日は本当にありがとうございました。お礼をさせていただきたいのですが、甘いものは好きですか?という文面だった。大好きです、と返事をし、予定を合わせて彼女と会うことになった。

彼女に指定された場所は、ホテルのカフェだった。そこでアフタヌーンティーの予約をしておいてくれていたのだ。小さなスイーツがたくさん乗った三段のプレートも、いくらするのか検討もつかないシャンデリアも、初めて出会った汚いトイレなんかと比べ物にならないほど彼女によく似合っていた。

「先日は本当にご迷惑をおかけしました……」

紅茶が運ばれてくるよりも先に、彼女は深々とお辞儀をした。

「いや、ぜんぜん、たいしたことはしてませんので」

本当に気にしないでくださいと伝えると、彼女は申し訳なさそうな表情をしつつも顔を上げた。
蘭子はガールズバーで働いていたが、あの日が最後の出勤日だったらしく、シャンパンの注文が開店からずっと止まらずにあの状態になったのだと教えてくれた。水商売をやめた今は、デパートの中の化粧品店で働いているのだという。この美貌なら、最後の出勤の日にシャンパンが入り続けるというのも納得であった。

その日、自分の分のお金は出すと言っても蘭子は断固として受け取ってくれなかった。

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