一目惚れの終末 (Page 3)
蘭子とは、付き合ってしばらくは身体の接触のない付き合いをしていた。側から見ると、友達なのか恋人同士なのか区別がつかない関係だったと思う。
そのうちふたりきりの部屋の中では手を繋ぐようになって、とうとう蘭子とセックスがしたいという欲求が生まれた。わたしも蘭子も同性と付き合うのは初めてで、異性としかしたことがなかったから、どうしたらいいのかよくわからなかった。
「蘭子は、わたしとセックスとか、したいって思う?」
酔った勢いで、お酒の力を借りて蘭子にそう尋ねてみた。
「思ってるに決まってるじゃん!千紗はどう思ってるのかわかんなかったから、言い出せなかったけど」
そう言った蘭子が真っ赤な顔をしていて、愛おしさのあまり胸が苦しくなった。
その夜、ふたりで女の子同士のセックスについて調べた。レズビアン向けのグッズとして、双頭ディルドやペニスバンドというものがあることを知った。お互い気持ちいい方がいいし、ペニスバンドは装着している姿を想像すると滑稽で爆笑してしまったので、双頭ディルドを買うことにした。リアルで生々しい男性器の形をしていなくて、ゼリーのように透き通っている水色の可愛い双頭ディルドを選び、ふたりで到着を待った。
アレ届いたよ、というハートの絵文字付きのメッセージが蘭子から送られてきたので、その週の土曜日は彼女の家に泊まりにいくことになった。
デートの前日、女子は忙しい。ましてセックスどころか裸体を見せるのも初めてとなると、気合いも入るがプレッシャーも大きい。全身の毛の処理、ボディスクラブ、フェイスマスク、ボディクリーム、頭皮から爪先までの臭い対策、ヘアパック、思いつく限りのケアを片っ端から行い、明日に備えた。
出迎えてくれた蘭子はルームウェア姿で、サテンのキャミソールの上に薄手のカーディガンを羽織っていた。
「なんかわくわくしちゃって、千紗のぶんもおそろいで買っちゃった」
着替えてよ、と言って蘭子は色違いの部屋着を手渡してくれた。蘭子がネイビーで、わたしはくすんだパープルだった。頼りない薄さの生地や短すぎるパンツ姿を彼女の前に晒すのは恥ずかしかったけれど、おそろいのルームウェアは嬉しかった。
ソファに並んで座って、缶酎ハイを飲みながら映画を観始めたけれど、内容なんてろくに頭に入ってこない。
ちらっと蘭子の方を見ると、目が合った。蘭子の右手が、わたしの左手に重ねられる。心臓が跳ねた。
「……映画、続き、観たい?」
そう尋ねられ首を振ると、蘭子がテレビの電源を切った。
蘭子はじっとこちらを見ている。目を逸らすことは出来なかった。
彼女に触れたいけれど、どう触れたらよいのかわからない。戸惑っていると、蘭子の方から手を伸ばしてきた。
彼女はわたしのカーディガンを肩から落とした。温められていた肌の上を空気が滑っていく。
冷え始めた剥き出しの二の腕を包み込むように掴まれ、ゆっくりと蘭子の顔が近付いてくる。彼女の前髪から甘いシャンプーの香りを感じるほど距離が縮まって、ようやくわたしは瞼を閉じた。
ふんわりと、柔らかなものが唇に触れる。わたしと蘭子は、キスさえしたことがなかった。
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