離婚の理由は (Page 2)
頭を軽く振って、雑念を払うように立ち上がった大志はトイレに向かった。
ひとつ下の階にあるトイレは、雰囲気のいい居酒屋らしく小綺麗で妙に洒落ていた。
オレンジ色のライトに照らされて洗面台の鏡を見ると、自分の顔が想像より赤くなっている。
酔っているだけか、と思うと笑えてきて、苦笑いしながらトイレを出ると、目の前に紗良がいた。
「あっ…」
「あ、小野くーん」
へらっと笑って首を傾げる仕草はあの頃と同じだ。
大志の心臓がどくん、どくんと早鐘を打つ。
「今日しゃべれてないねえ」
「…はい」
「同窓会に呼んでもらえるなんてさあ、嬉しいよー」
紗良も酔っているのか、すこしとろんとした喋り方になっている。
年上で、教師なのにどこか危なっかしくて放っておけない、その感じは昔から変わらない。
「先生、離婚されたんですか」
こんなに問い詰めるようなきつい言い方で尋ねるつもりじゃなかったが、切羽詰まった気持ちがそうさせた。
「…あー、聞こえてた?ははは…」
「どうして別れたんですか」
睨むように紗良を見つめて、大志は抑えきれない思いをぶつけた。
紗良は先ほどまでとは変わって神妙な表情になる。
「…離婚の理由なんか聞きたい?」
「それは、だって俺…」
「いいよ…じゃあさ、終わったら駅の東口で集合ね」
「え?」
「来てくれたら、教えてあげる」
紗良は挑発的に笑うと、大志の肘に軽く触れた。
そして大志が反応を返すより早く背を向けてトイレに入っていってしまった。
「ひがし、ぐち…」
ぽかんとした顔で大志はつぶやいた。
本当なら大志は、そのまま紗良がトイレから出てくるのを待ち伏せして、今の言葉の意味を問いただしたかった。
しかしそうしてしまうと、もしかして生まれたかもしれない一つの可能性がその時点で消えてしまうような気がした大志は、黙って同窓会の会場に戻ったのだった。
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