離婚の理由は (Page 3)
華やかな繁華街に面した西口と比べて、その中規模駅の東口側は静かで人気がない。
夜は特にそうで、コンビニとビジネスホテルの灯り以外はほとんどネオンらしいものも見えなかった。
同窓会の会場はもちろん西口側で、参加者のうち半分以上は近隣の店での2次会に流れた。
帰宅するメンバーも駅を普通に利用するのみだから、少し時間をあければ東口でクラスメイトと遭遇することはないだろうと大志は思った。
「小野くん」
紗良先生は現れないかもしれない。からかわれただけかもしれない。
そう思いながらも期待せずにはいられず、コンビニから少し離れた位置にあるベンチで大志が15分程待った時、声をかけられた。
「先生…」
「本当に来たぁ、ははは」
紗良は困ったように眉根を寄せて笑い、座っている大志を見下ろすように少し屈んだ。
「先生が東口集合って言ったんじゃないですか」
不貞腐れたようなトーンで大志は言った。
「ふふ、そうだね…でも、本当に離婚の理由が知りたいから来た訳じゃないでしょ」
「…」
「いこ?ぜんぶ教えてあげるから」
そういうと紗良は大志の腕を引っ張って立ち上がらせると、先に歩き始めた。
「どこに行くんですか」と尋ねずに大志が黙ってついて行ったのは、行き先についてうっすら期待するところがあったからだ。
東口から歩いて5分ほどの場所にラブホテルがあることは、この地域に住む人なら誰でも知っている。古く、大きくないホテルだが、立地が良いため使う人が途絶えないのだろう。
「浮気だよ…あっちのね」
駅から離れ、しんと人気のない路地に入ったタイミングで紗良が振り返って言った。
「田上先生でしたよね、確か…」
小さく頷いた紗良は、再び前を向いてぽつぽつ歩き出した。
「若くてさ、仕事もなんにもわからなくて…そんな私からすると、頼れる人に見えたんだよねあの頃は」
「…」
「ころっと騙されて…結婚当初からモラ傾向はあったけど、極め付けの浮気発覚でようやく離れる決意ができた…的な」
そこまで話して、紗良が足を止めた。
その場所はまさに、ラブホテルの前だった。
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