新婚初夜にはじめての
その日結婚式を終えたばかりの片桐拓海と美優は、式を行った高級ホテルのスイートルームに宿泊していた。
小規模だが料理や衣装を奮発した特別な披露宴を終えて幸せな疲労感に浸る拓海は、先に入った美優のいる浴室へ入っていった。普段と違う広いバスルームでテンションが上がった2人はいちゃいちゃしながら盛り上がっていくが、その時ふとあることに気づくのだった…
「え、やだ!どうしたの?」
片桐拓海が浴室のドアを開けて中に入ると、先に入浴していた妻の美優は驚いて声をあげた。
「一緒に入りたいなと思って」
「馬鹿じゃん!」
美優は20分ほど前から入っていたので、すっかり全身を洗い終わって湯船に浸かっていた。
「いいじゃん、せっかくこんな広い風呂なんだから」
「もう…」
呆れ顔の美優を横目に、にやっと笑った拓海は早速シャワーを出して頭から全身を流し始めた。
そして整髪用のスプレーで固まった髪をほぐすように指を通していく。
普段整髪料をほとんど使うことのない拓海にとってそれはやや不快な感触だったが、それも今日が2人にとって特別な日だったことを示す事柄のひとつと思えば嫌な気はしなかった。
*****
拓海と美優は、この日結婚式を挙げていた。
同じ会社に同期として入社した2人が付き合い始めたのは2年目に入る頃で、それから4つの春を数えた今年、ついにこの「佳き日」を迎えることになった。
人並みに紆余曲折を経て、しかし互いに配偶者となるにはこの相手しかいないという合意に至ったことを拓海は本当に幸せだと感じている。
時世を見て、新婚旅行は近場で短く済ませることにしたので、式には少し多めにお金をかけた。
といっても披露宴の方も招待する人数は少なくせざるを得なかったので、規模の大きい式なら手が届かなかっただろう高級ホテルを会場に選び、料理や衣装は思い切って奮発した。
こうして小規模ながらも特別な式を終えて、新郎新婦の2人はそのまま会場に使ったホテルのスイートルームに宿泊する夜を迎えていたのである。
*****
「しかし広いね」
「ほんと」
その浴室は、普段2人が暮らしているマンションのそれとは比較にならない広さだった。
洗い場も浴槽も、2人で一緒にいても窮屈さを感じない。
「脚伸ばせるもん、ほら」
美優が浴槽で脚をすっかり伸ばして見せた。
「うん、でも曲げて?俺も入るから」
「もぉー」
身体を洗い終わった拓海は、美優に正対する形で湯船に入った。
互いに裸で向き合って、しばらく見つめ合った後、2人はくすくすと笑った。
「なんか、不思議な感じ…私たち本当に」
「うん…結婚したんだな」
「今日から夫婦だ?ははは」
「まぁ6日前から入籍はしてたけど」
「確かに。でもなんか、やっぱり式やって実感するというか」
「そうね」
話しながら、拓海は今日の披露宴を思い出していた。
ウェディングドレス姿の妻は、神々しくすら見えるほど美しかった。
最高です
夫婦の愛が伝わってきます、読むたび泣きながら興奮しています……!!夫婦の営みを書いた作品が好きなのですが、数が少なく……まるさんの作品に救われています。避妊具の使用の部分など、夫婦が対等で健全な関係である表現も個人的にとても好みです。愛し合う人間、最高です!!
ヌ さん 2023年6月9日