初心な初めての誘惑 (Page 2)
「だったら……、指導していただいても良いですか?」
「指導? 何を?」
「えっと、それは……」
私の口から出た思いつきに、藤生先輩はキョトンとしている。
実際、私もとりあえず口にしたものの、その先を続けることができずにいた。
「……うーん、まあ、悩んでいるみたいだから、話くらいは聞くけど……」
「じゃあ、お店が終わった後、良いですか?」
「うん、いいよ」
気安く言うと藤生先輩は再び仕事に戻っていった。
結果的に終業後に藤生先輩とお話しする機会を作れたので良しとすることにした。
「塚原さん、ちょっと良いかな」
「はいっ、ただいまー」
余韻に浸って呆けていると他の店員に呼ばれてしまう。
イケないイケないと軽く頭を小突くと、私も売り場に戻るのだった。
それでも頬の緩みは抑えられそうもなかった。
終業後、私は奥の歓談スペースのソファに座ると、昼間手芸教室でやったパッチワークの続きをしていた。
上手く教えられずに反省する点を洗い出そうと思ったからだ。
我ながら律儀なことだと思わないでもなかったが、単純に手芸が好きだから、まったく苦にならない。
それに藤生先輩を待っている間の時間つぶしにちょうど良かった。
「相変わらず上手いなあ、塚原さんは」
「ひゃっ」
気が付けば目と鼻の先に藤生先輩の顔がある。
どうやら手芸に集中しすぎて、そばに来ていたことに気が付いていなかったらしい。
テーブルの向こうから顔を覗き込ませていた。
「ごめんごめん、びっくりさせちゃったね。お待たせしました」
申し訳なさそうに微笑むと、藤生先輩は私と向かい合うようにソファに腰掛けた。
相変わらず良い声で、話をしているだけで落ち着いてくる。
「いえ、お呼び立てしたのはこちらですから、気になさらないでください」
「で、何だったっけ?」
藤生先輩の言葉に私はちょっと考え込む。
さあ、いったいどんな相談をすれば良いのだろうか。
改めて何か話そうと考えると困ってしまう。
だからだろうか、つい口から出てしまった。
「えっと、横に座って良いですか?」
「はいっ? えっ、ああ、まあ、うーん、どうぞ」
突然の私の言葉に藤生先輩は混乱しているようだった。
その隙を逃さずに私は横に座った。
もちろん、体を密着させて、少しもたれかかるような格好で。
「えっと、どうしたの?」
「それはですね……」
我ながらいきなり積極的な行動に出たものだと呆れてしまったが、ここまで来たら行くしかない。
私は頬が上気するのを隠せないまま、上目遣いで藤生先輩の瞳を見つめた。
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