ワンチャンつながる (Page 2)
沙織は地方から出てきて就職して3年目。
素朴で派手さはないが顔立ちは整っている。
賢いが生真面目で「うぶ」だ。
そんな沙織を夢中にさせることは、若い頃から都会で散々女性と交際してきた恭平にとっては容易いことだった。
彼女が入社した時から、恭平は「狙っている」若い女性のリストに沙織を入れていた。
あらゆるタイプの女性を好み、セックスしてきた恭平だが、若くうぶな女性を性的に開花させる行為は特に腕が鳴るし楽しいものである。
「良かった、おじさんひとりでケーキを選ぶのはちょっと恥ずかしいからね」
「ふふ、意外です…課長甘いものお好きだったんですね」
沙織の笑顔は、いまこの瞬間に甘いものを口にしたかのようにとろけている。
憧れの上司をひとりの男性として見ることをこの瞬間許されたような気がして、沙織は湧き上がってくる欲望が胸の奥をうずかせるのをはっきり感じていた。
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沙織は特別年上男性が好きという訳ではなかった。
地方の国立大学で学生生活を送っていた頃は同い年の恋人と交際していたし、経験豊富とは言えないが周囲と比較して自分の性経験が極端に不足しているとも考えなかった。
だから東京で働き始めて、自分がこれまで接してきた40代男性とは全く違うタイプのスマートでかっこいい年上男性に心惹かれた時には正直自分でも戸惑った。
戸惑った沙織が出した逃げ道が「推し」という言葉だったのだ。
「推し」とは通常、好きな芸能人やアニメキャラクターを指して使われる言葉だが、最近は自分の身の回りの人物に対してもカジュアルに使う人が増えている。
「推し」と言っておけば、自分が本当はその相手を性的な目で見ていることも恋愛感情を抱いていることもそれとなく隠せる感じがするし、それでいて好意自体は表せる。
この便利な言葉で沙織は自分自身の気持ちを誤魔化し、逃げ道を作りながら気楽に片思いを楽しんでいたのである。
恭平が極度の女好きで遊び人だという噂は早いうちから沙織の耳にも入っていたが、沙織には「推し」という言葉の隠れ蓑があったからダメージを受けなかった。
自分は恭平に遊ばれる対象ですらないただのファンだと思い込めば、真っ当な恋愛なら拒絶感を持つような特性も抵抗なく受け入れられる。
しかし今、沙織はどうしようもなく自分の感情と向き合わざるを得なくなっていた。
食事の途中から恭平の眼差しが性的な欲望を含んでいることに気づいていたからだ。
自分を性的に見る男の目に気が付かないほど沙織は鈍感ではなかった。
憧れの人が自分を女として見ていることに気がついて、沙織は強烈な欲情と深い悲しみを同時に感じていた。
丁寧
描写がいつもより丁寧ですね。
カオル さん 2023年12月3日