初恋の少女

・作

あの頃は見ている事しかできなかった。だけど今は違う———。中年教師の竹原は、金銭的支援と引き換えに、苦学生だった葵の体を要求した。進学という夢と祖母への孝行のため、葵はその無垢な体を差し出すことに。しかし竹原が本当に触れたかったのは、目の前の葵ではなくて…。冴えない男が持ち続けていた、30年越しの恋心。

「…いいんだな?清水…」

飾り気のない、単身者向けの狭いアパート。

小太りな中年男は興奮に声を震わせながら、制服を着た美少女の肩に両手を置いた。

少女は何も言わず、ただ泣きそうな表情を浮かべてごくりと息を飲んだ。

ゆっくりと二人の顔が近付く。

口元に生暖かい吐息を感じて、少女の白い肌は粟立った。

ぶちゅ…と唇が触れ合い、途端に漂ってくる加齢臭と、ちくちくした顎髭の感触。

少女は硬く目を瞑り、全く違う事を考えようと努めた。

しかし無遠慮に唇を吸い上げられる不快感で、あっさりと現実に引き戻されてしまう。

…ぢゅっ、ぶちゅ、ぢゅるるっ…

「…っ…ぅ…むぅ…」

男の息遣いが次第に荒くなっていき、少女を抱き締める腕にも力がこもる。

尖らせた舌を唇の間に捩じ込もうとすると、そこは侵入を拒むようにきゅっと硬く引き結ばれた。

僅かな隙間を探すように、男は舌先で少女の唇をゆっくりなぞっていく。

「んっ…、…んむ…」

…にゅる…

「んん…!」

薄い唇をこじ開けて入ってきた分厚い舌は、無遠慮に口内を這いまわり、いたいけな美少女の初めてを奪い取っていった。

「はぁっ…清水…はぁ、はぁ、ちゅばっ、じゅるるる…!」

男は少女の小さな頬を両手で固定して、鼻や顎に至るまでべろべろと舐め回す。

「…んー…!ん、んんー…!」

少女漫画の甘いキスとは程遠い、捕食されるようなおぞましい行為。

少女はなすすべもなく、瞳いっぱいに涙を溜め、くぐもった悲鳴を漏らした。

*****

竹原哲也が教師を目指したのは、両親が教師だったから、ただそれだけの理由だ。

地味な容姿と事なかれ主義な性格で、取り立てて優れたところは何もないが、問題を起こすこともない。

そうして何年も家と学校を往復しているうち、白髪と無駄な肩書きばかりが増えていき、気が付けば五十も半ばに近付いていた。

きっとこの先三十余年、同じように何の彩りもなく死んでいくのだろう。

それが当然と思えるほど退屈だった日々は、一人の生徒との出会いで一変した。

担任になったクラスの清水葵。

彼女は両親に先立たれ、老いた祖母のもとで裕福とは言えない暮らしを送っていた。

竹原が何かと彼女のことを気にかけ、時間外に勉強を教えたりと援助を惜しまないのを、周囲も本人も恵まれない境遇への同情と思っただろう。

だが真実は全く違っていた。

竹原が葵を通して見ていたもの、それは彼女の亡き母親であり、初恋の相手でもある———小野寺翠だったのだ。

透き通るような美少女で、学生時代の竹原は話しかけることすらできなかった翠。

ラブレターを書いては消し、消しては書き、社会人の彼氏がいるらしいと噂で聞いてひっそりと涙した、ほろ苦い思い出。

だから瓜二つの葵と一緒の時間を過ごしていると、青春のやりなおしをしているような、そんな気分に浸ることができた。

勿論、草臥れた中年の竹原が、葵から『親切な担任』という枠を超えて認識されることなどありえない。

ただほんの少しだけ、翠を感じられたらそれで…

*****

公開日:

感想・レビュー

1件

初恋の少女 へのコメント一覧

  • tnpoevwzfk

    Muchas gracias. ?Como puedo iniciar sesion?

    kjrhfrorqg さん 2024年10月22日

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