初恋の少女 (Page 2)
「進学しないのか?」
葵が問題を解いている間、進路相談の用紙に目を落としていた竹原は驚いたように言った。
「…そんな余裕ありませんから」
葵は手を止め、ちょっと寂しそうな笑顔を作った。
「お前の成績なら奨学金くらい取れる」
「受けるだけでもお金がかかるし、入学金とか、生活費とか、バイト代ではとても…年金暮らしのお婆ちゃんにそこまで甘えられません」
そう口では言っても、本当は行きたいはずだ。
休み時間に友達とオープンキャンパスの資料を見て、楽しそうにしていたのは知っている。
この子は賢いからどうにか大学まで、と面談で話していた老婆の姿が浮かんだ。
「…せっ…先生が…出してやるって言ったら、どうする?」
「えっ?」
「受験費用も、その先も…面倒見てやるって言ったら…」
「…それはすごく助かりますけど…でも、そんな」
突然の申し出に、葵は驚きとも困惑ともつかない、複雑な表情をした。
「大学は楽しいぞ。長い目で見れば高卒より稼げる。学力があるのに行かないのは勿体無い」
「…そう…かもしれませんけど…」
「生徒が良い大学に行けば、先生の評価も上がるんだ。お婆ちゃんだって喜ぶだろう。どうだ、行きたくないか?」
「…。…だけど…私、何にもお返しできるものが…」
葵は期待と喜びを滲ませつつ、遠慮がちに言った。
ごくり、と竹原の喉が鳴った。
「そ、そう…だから…代わりと言ったらあれなんだが…」
汗ばんだ手が肩を掴み、葵はビクっとして目を見開く。
「…清水は賢いから…その…何をすればいいか分かるよな…?」
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