おまえの母ちゃん

・作

大学生の奥田翼は、祖父の三回忌のために久しぶりに地元に帰ってきていた。法事のための買い出しにスーパーに出かけると、幼なじみで親友の平井涼太の母である恵に遭遇した。恵は20歳で涼太を産んだ若い母親で、豊満な身体が魅力的な翼の憧れの女性だった。重いものを買おうとしていた恵を、車で来ていた翼が送っていくと、家の中でお茶をご馳走してもらうことになった。憧れの女性との2人きりの状況に翼は…

久しぶりに入った地元のスーパーで、見覚えのある立ち姿を見かけた奥田翼は、その瞬間にどくんと心臓が大きく鳴った。
その女性は翼がずっと憧れ続けて、そしてどうあってもその憧れを形にすることが許されない存在の、年上の女性だった。

「こんにちは」

何か迷うような様子で飲料コーナーを見ていた平井恵に、翼は躊躇う間もなく衝動的に声をかけた。
かけられた声に反応してこちらを振り向いた恵は、一瞬驚いた顔をして、すぐ柔らかい笑顔になる。

「あらっ、翼くん!?」

「お久しぶりです」

「久しぶりねえ!こっちに帰ってきてたの?」

翼より少し背が低い恵がこちらを見上げて見せてくれる笑顔が、いつも翼をときめかせた。

「はい、明日うちのじいさんの三回忌で」

「そう、もうそんなになるのねえ…」

「その準備で買い出し頼まれたんで、ほら」

言いながら、翼は自分が引いているカートの中に大量の食品が入っているのを指差して見せた。

「本当!お使いなんて偉いのねえ」

「偉いのねって、俺もう21っすよ」

ずっとそうされてきたのと同じように、子どもを慈しむ表情を出されると翼はどうにも切なくなる。

「ふふふ、そりゃそうよね、涼太と同じ年だもの」

指摘された恵は、おかしそうに笑った。

「ねえ、涼太はちゃんとやってるかしら?あの子、家には全然連絡よこさないのよ」

「元気ですよ、ちょこちょこ飯とか行ってます」

涼太というのは恵の息子で、翼の幼い頃からの親友だ。
つまり恵は翼にとって「友達の母親」でありながら、ずっと恋焦がれてきた女性なのである。

「本当?ちゃんと単位とか取れてるのかしら…」

「大丈夫ですよ。この前の試験期間中も一緒に勉強しました」

「そうなの!翼くんが同じ大学にいてくれて本当に良かったぁ、小さい頃から翼くんはしっかりしてたものね」

「いや、全然そんな…」

苦笑いで口籠もる翼を見る恵の眼差しは、子供の頃と同じように温かくて優しい。

 

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