沈黙の休日を過ぎて特別な毎日へ (Page 2)

 私はショックで言葉を返すことができなかった。
 でも、信じたくはなかったけれど、それはきっと事実なのだろう。
 現に声がこれほど聞こえづらいのだ。
 そして、その懸念通り、事故の影響で私の聴力は著しく落ちていた。
 不幸中の幸いかどうかは分からないが、私の耳は完全に聞こえなくなったわけではなかった。
 そして、もしかしたら治るかも知れないとも言われた。

(でも、それは……、いつになるかは、分からない、のよね……)

「静さん……、何でもお手伝いしますから!」

 衝撃的な宣告に肩を落とす私を励ますようにトシちゃんが、ゆっくりと、そして大きな声で呼びかけてくる。
 でも、私は軽く口元を緩めるだけで微笑み返すことができなかった。
 だって、聴力の欠如は、私にとっては死の宣告にとって他ならなかった。
 すなわちピアニストとしての死に他ならないからだ。

*****

「静さん! 何やっているんですか!」

 数日後、ドアを開けるやいなや、トシちゃんは猛然と私の所に駆け込んできた。
 そして、私の手にしていたカッターナイフを取り上げると、困ったように溜息を吐いた。

「良かった。まだ今日は切っていないですね……」

 ためらい傷だらけになっている私の手首をさすりながらトシちゃんはそう言った。
 ピアノが弾けないなら死ぬしかないと思っても、その程度しかできない私。
 でもそのたびごとに、トシちゃんは心配してくれる。
 そんな風に甘え続ける自分も嫌で仕方がなかった。

「トシちゃん。もう私のことは放っておいて良いのよ。……こんな風に迷惑を掛けるしかないのに……」

 突き放すように言った私にトシちゃんは大きく首を振った。

「嫌です。だって、静さん、私がいなくなったら本当に死んじゃうでしょ?」
「良いじゃない。……私にはピアノしかなかった。でも、それがなくなってしまって……、そんな私に生きている意味なんかあると思う?」

 捨て鉢な私の言葉に、トシちゃんは首を縦に振らない。

「そんなことありません! あるに決まってます」
「ないわよ。ないから生きていたって仕方ないじゃない……」

 私の言葉に、トシちゃんはちょっと考え込むと、何らかの決意をして声を発した。

「だったら……、だったら、私にください」
「えっ?」
「静さんが自分をいらないって言うんだったら、私が貰います」

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