コレクター
ゲームを通じて知り合った長樂(ながら)と、チズリというプレイヤー。ゲームのリアルイベントで初めて会うことになった二人の虚実が入り混じる関係はどうなるのか……。
大きなテーブルに呑み放題コースの料理と酒が次々と並べられる。
居酒屋の店内には活気が満ち、あちこちで大きな笑い声が上がっていた。時刻は宵の口といったところだが、あちこちで酔客が赤い顔を晒している。
長樂(ながら)は自分の前に置かれた烏龍茶から視線を挙げ、運んでくれた従業員に小声で礼を言った。すると若い従業員は照れたような顔で会釈を返す。
テーブルを囲んでいる一同に飲み物が行き渡ると、年嵩の男性が飲み物を軽く掲げて声を上げる。
「じゃあ、お疲れ様。かんぱいっ」
それぞれが近い席のものとグラスを触れ合わせる。
グラスの鳴る軽やかな音に続いて、思い思いに酒を口に運ぶ。
長樂も同じようにグラスに口をつけた。
「今日は新人の歓迎会も兼ねてるから、じゃんじゃん飲んで食ってくれ」
「社長、太っ腹! でもそろそろお腹は引っ込めて!」
「うるせえっ」
近くの者が囃し立て、皆が笑う。長樂も笑みを浮かべた。
それから思い思いに杯を重ね、料理が半分ほど皆の口に入った頃、新人の一人が長樂に言った。
「特殊清掃って、マジであるんスか」
「あるよ」
事も無げに長樂が答えると、その新人は目を丸くした。ちらりと社長に目をやった後、声を潜めて問いを重ねる。
「あの、死体とか、見るんスか」
「見ないよ。俺達がするのは部屋の片付けだけだからね。そういうのは警察が片付ける」
「うわぁ、怖え」
長樂は烏龍茶に口をつけ、ちらりと新人の顔を見た。社会人になったばかりの若者だ。興味津々といった感じの目で長樂へ向けている。
「じゃあ、幽霊とかそいうのは……」
少し考えてから長樂は首を小さく横に振った。頭の中をどうひっくり返しても幽霊の類に出会った記憶は出てこない。
「悪いけど、ないかな」
そう言った長樂の隣にどさっと乱暴な仕草で、先輩社員が腰を下ろした。
「なぁに話してんだ」
「幽霊とか、そういう感じの話ですよ。彼、そういうのが聞きたいみたいで」
笑って長樂が水を向けると、新人はおっかなびっくりといった表情でこくこくと頷いた。この先輩社員はかなりの強面で、新人達からも怖がられている。だが、実際は面倒見がよく、子煩悩な愛妻家なのだ。それを知らずに人当たりの柔らかい長樂の所に来たのだろう。
そのまま怪談大会に突入した先輩と後輩を眺めつつ、長樂はゆったりと食事をする。
そうこうする内に時間が過ぎ、飲み放題の時間が終了してしまった。長樂たちはぞろぞろと魅せの外に出て、二次会に行く者とそうでない者に別れる。
「あれ、長樂さん、次行かないんスか」
「時間も遅いしね」
腕時計を見ると、すでに日付が変わりかけていた。
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