コレクター (Page 7)
「そんなことより、あの人、馴れ馴れしいわ。あなたの傍にずぅっといて、へらへらと」
声音は変わらない。表情も変わらない。だが、怨嗟が滴るような響きがチズリの声にはあった。
「あの人って、誰?」
「今日、歓迎会であなたと話していた、あの新人。名前は――」
つらつらとチズリは新人の名前を始めとした情報を口にする。住所や電話番号、家族構成など、次から次へと出てきた。
「あの子はやめてほしいな。職場でいざこざは面倒だ」
「でも、不倫は職場が多いの」
「興味がないよ」
長樂は無感情に言い放った。
すると今度は昼間にいったカフェで店員と親しく話していたことを根掘り葉掘り訊かれる。
気のない返事ばかりしていると、チズリは不意に長樂の手首を掴む。彼女の手の中で古い腕時計が軋む。チズリの顔には全く表情がない。
「ねえ、私のことを見て。それともあのお爺さんみたいにあなたの傍からいなくなったら、それなら私のことを、見て、くれる?」
長樂は静かな表情のままチズリを見て何でもないようなこと告げる。
「そうなるかもね」
その言葉を聞いた途端、無表情から一転して口が裂けるようにチズリは笑む。
いつから目をつけられたのか、長樂には分からない。だが、彼の手を握っているこの女性は、ずっと長樂を見ていた。片時も離れず、延々と自らが長樂を独占することだけを欲して、邪魔をする者も、彼に近づく他者も全て排除したいらしい。
そもそも彼女の本当の名前も彼は知らない。
どこまでも、どこまでも彼女は長樂についてくるだろう。
だからこそ彼女は、――とても興味深い。
そう長樂は考えていた。
チズリから自らの今日一日の行動を聞かされながら歩いていると、自宅に帰り着いた。
木造平屋建ての年季の入った住宅である。
長樂が入ると、当然のようにチズリもついてきた。
彼は眠るために自室に向かう。明日は休日なので、ひと眠りしてから風呂に入る心積もりだ。
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