コレクター (Page 6)
部屋の隅に据えられた小さなデスクの周囲を回収していく。机の中身を検めた時、長樂は日記帳を見つけた。その日記帳を開けようとして、思い止まる。
故人のプライバシーを覗き見するような行為は職業倫理的には決して許されない。
何よりも、そんなことをしている時間はないのだ。
だが――
長樂は日記帳を開てしまう。まるで誘われるように。
そこには教職に就いた女性が日々の苦悩を綴っていた。時折救いのようにゲームでストレスを発散していることなどが分かった。そして、ある時、他のプレイヤーと親しくなったと記されている。
「……僕か」
プレイヤーの名前は長樂のものだった。
同名の多プレイヤーという可能性は限りなく低いだろう。幾つも覚えのある出来事や会話の切れ端が日記には記されているのだから。
最後の日記には、長樂をイベントに誘ったことが書かれていた。そして、教職への限界も併記されている。
この日記を書いた人物――チズリは、どのような心境で自分と出会い、身体を重ねたのか。
そのことを長樂は思った。
そして、彼女の日記をケースには収めず、自分の鞄へそっと忍ばせた。
「これは彼女が生きた証だ」
苦悩と希望が入り混じり、この世に二つとないものとなったのだ。
記憶から現実に立ち戻ると、チズリが不思議そうに長樂を見ていた。
「どうかした?」
「それは私の台詞なんだけど……」
チズリは小首を傾げた。
「君と初めて会った時のことを思い出してたんだよ」
長樂が言うと彼女はくすくすと楽しげに笑った。
「あなたの初めて、私の初めては、きっと一緒じゃないわね」
彼女はするりと滑るような動作で長樂の隣に並ぶと、彼の手を握った。指を絡め、身を寄せる。
「ところで、いつまで名前はチズリのままなのかな?」
「いつまでも。この名前はあなたと初めてデートをした時の記念なの」
それに、とチズリは笑みを深くした。
「あなたにたかる害虫を始末したトロフィーみたいなものよ。ほら、狩人は獲物の首を剥製にしたりするでしょう?」
「なるほど」
素直に長樂は頷いた。
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