コレクター (Page 2)

「うわ、時計スゲー」

 彼が使っている年代物の腕時計を見て新人が声を上げる。

「ビンテージってやつっスか」

「どうだろうね。人から譲ってもらったものだから」

「すげー。女の人からのプレゼントとか?」

「いや、違うよ」

 長樂は苦笑して腕時計を撫でた。

「形見分けって分かる?」

「おじいちゃんとかスか?」

「近所のね。親しくしてたから、ご遺族から譲ってもらったんだよ」

「えっ、マジっすか。それ凄くないスか」

「凄いかどうかは、分からないけどね」

 苦笑する長樂に新人は、長樂さんマジいい人なんスね、と連呼していた。

 長樂はそのまま二次会には同行せず、歩いて帰ることにした。彼の自宅は居酒屋は駅を挟んで反対方向にある。昔ながらの家屋が立ち並ぶエリアだ。

 大通りから少し外れ、静かな夜道を歩いていく。 昼間は聞こえないような、大気の鳴るごぉっという音が聞こえた。

 踏切を渡ると、次第に背の高い建物が視界から消える。周囲には住宅が増え、ぽつんと街灯に照らされた小さな公園が忘れ物のように時折顔を出した。

 そんな町の中で幾つか路地を曲がり、街灯の灯りが遠ざかるあたりで長樂は不意に声をかけられた。

「こんばんは」

 長樂は足を止め、振り返った。そこには女性が立っていた。白いワンピースにショールを羽織った細身の女性だ。

 端正な顔でにこにこと笑顔を長樂へ向けている。

「こんばんは」

 彼がそう返すと、女性はするすると歩み寄ってきた。

「今日は、ずいぶん帰りが遅いのね」

「新人の歓迎会があったから」

「何度も連絡したのに」

 笑顔を消し、女性が不満そうな顔になる。微かに眉をひそめたその表情は悩まし気で、性別を問わず惹き込まれる魅力があった。

「気づかなかった」

 ポケットからスマホを取り出し、確認すると履歴にチズリという名前が確かにある。

「酷い人ね」

 そう言って彼女は長樂ではなく、彼の持つスマホに指先で触れた。

 チズリの指先とスマホを見て、長樂は彼女と初めて顔を合わせた時のことを思い出す。

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